bookworm's digest

33歳二児のエンジニアで、日記をずらずら書いていきます

記事一覧 ブログ内ランキング 本棚

2015/09/20 『孤独か、それに等しいもの』 / 大崎義生
2015/09/17 『今日を歩く』 / いがらしみきお
2015/09/16 『ケンブリッジ・クインテット』 / ジョン・L・キャスティ
2015/09/06 『裸でも生きる2』 / 山口絵理子
2015/09/02 『数学的にありえない(下)』 / アダム・ファウアー
2015/08/30 『だから日本はズレている』 / 古市憲寿
2015/08/28 『数学的にありえない(上)』 / アダム・ファウアー
2015/08/18 『僕は問題ありません』 / 宮崎夏次系
2015/08/16 『世界の終わりと夜明け前』 / 浅野いにお
2015/08/13 『ワイフ・プロジェクト』 / グラム・シムシオン
2015/08/13 『伊藤くんA to E』 / 柚木麻子
2015/07/30 『断片的なものの社会学』 / 岸政彦
2015/07/25 『雨のなまえ』 / 窪美澄
2015/07/22 『愛に乱暴』 / 吉田修一
2015/07/19 『ナイルパーチの女子会』 / 柚木麻子
2015/07/15 『ひらいて』 / 綿矢りさ
2015/07/13 『るきさん』 / 高田文子
2015/06/24 『装丁を語る。』 / 鈴木成一
2015/06/16 『春、戻る』 / 瀬尾まいこ
2015/06/13 『かわいそうだね?』 / 綿矢りさ
2015/06/12 『未来国家ブータン』 / 高野秀行
2015/06/09 『存在しない小説』 / いとうせいこう
2015/06/02 『帰ってきたヒトラー』 / ティムールヴェルメシュ
2015/05/31 『流転の魔女』 / 楊逸
2015/05/21 『火花』 / 又吉直樹
2015/05/19 『あと少し、もう少し』 / 瀬尾まいこ
2015/05/17 『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』 / 古市憲寿、上野千鶴子
2015/05/02 『切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』 / 佐々木中
2015/04/26 『恋するソマリア』 / 高野秀行
2015/04/25 『アル中ワンダーランド』 / まんしゅうきつこ
2015/04/23 『レンタルお姉さん』 / 荒川龍
2015/04/17 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 / J.D.サリンジャー
2015/04/12 『しょうがの味は熱い』 / 綿矢りさ
2015/04/07 『ペナンブラ氏の24時間書店』 / ロビン・スローン
2015/03/26 『せいめいのはなし』 / 福岡伸一
2015/03/25 『やりたいことは二度寝だけ』 / 津村記久子
2015/03/21 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下)』 / 増田俊也
2015/03/14 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上)』 / 増田俊也
2015/03/06 『元職員』 / 吉田修一
2015/02/28 『黄金の少年、エメラルドの少女』 / Yiyun Li
2015/02/23 『太陽・惑星』 / 上田岳弘
2015/02/14 『迷宮』 / 中村文則
2015/02/11 『僕は君たちに武器を配りたい』 / 滝本哲史
2015/02/08 『斜光』 / 中村文則
2015/02/04 『この人たちについての14万字ちょっと』 / 重松清
2015/01/27 『名もなき孤児たちの墓』 / 中原昌也
2015/01/18 『満願』 / 米澤穂信
2015/01/15 直木賞
2015/01/15 『Hurt』 / Syrup16g
2015/01/14 『地下の鳩』 / 西加奈子
2015/01/10 『きょうのできごと』 / 柴崎友香
2015/01/05 『月と雷』 / 角田光代
2015/01/02 『カワイイ地獄』 / ヒキタクニオ
2014/12/31 『死んでも何も残さない』 / 中原昌也
2014/12/30  2014年ベスト
2014/12/18 『サラバ!下』 / 西加奈子
2014/12/13 『サラバ!上』 / 西加奈子
2014/12/12 『できそこないの男たち』 / 福岡伸一
2014/12/4 『ザ・万歩計』 / 万城目学
2014/12/1 『ぼくには数字が風景に見える』 / ダニエル・タメット
2014/11/25 『アズミ・ハルコは行方不明』 / 山内マリコ
2014/11/19 『勝手にふるえてろ』 / 綿矢りさ
2014/11/13 『ジャージの二人』 / 長嶋有
2014/11/6 『8740』 / 蒼井優
2014/11/5 『計画と無計画のあいだ』 / 三島邦弘
2014/10/31 『問いのない答え』 / 長嶋有
2014/10/29 『ジュージュー』 / よしもとばなな
2014/10/20 『Bon Voyage』 / 東京事変
2014/10/17 『女たちは二度遊ぶ』 / 吉田修一
2014/10/15 『カソウスキの行方』 / 津村記久子
2014/10/10 『69(シクスティナイン)』 / 村上龍
2014/10/3 『論理と感性は相反しない』 / 山崎ナオコーラ
2014/9/28 『最後の家族』 / 村上龍
2014/9/25 『グラスホッパー』 / 伊坂幸太郎
2014/9/23 『エヴリシング・フロウズ』 / 津村記久子
2014/9/13 『神様のケーキを頬ばるまで』 / 彩瀬まる
2014/8/23 『西加奈子と地元の本屋』 / 西加奈子・津村記久子
2014/8/10 『蘇る変態』 / 星野源
2014/8/4  『ジョゼと虎と魚たち』 / 田辺聖子
2014/7/31 『マイ仏教』 / みうらじゅん
2014/7/23 『オールラウンダー廻』 / 遠藤浩輝
2014/7/17 『ゴールデンスランバー』 / 伊坂幸太郎
2014/7/16 『百万円と苦虫女』 / タナダユキ
2014/7/8  『人生エロエロ』 / みうらじゅん
2014/6/28  駄文・本を読まない場合
2014/6/8  『平常心のレッスン』 / 小池龍之介
2014/6/5  『僕らのごはんは明日で待ってる』 / 瀬尾まいこ
2014/5/27 『泣き虫チエ子さん』 / 益田ミリ
2014/5/25 『動的平衡2 生命は自由になれるのか』 / 福岡伸一
2014/5/14 『春にして君を離れ』 / アガサ・クリスティー
2014/5/9  『統計学が最強の学問である』 / 西内啓
2014/5/1  『不格好経営』 / 南場智子
2014/4/27 『きみの友だち』 / 重松清
2014/4/22 『善き書店員』 / 木村俊介
2014/4/15 『人生オークション』 / 原田ひ香
2014/4/8  『疲れすぎて眠れぬ夜のために』 / 内田樹
2014/4/1  『戸村飯店 青春100連発』 / 瀬尾まいこ
2014/3/28 『完全なる証明』 / Masha Gessen
2014/3/22 『渾身』 / 川上健一
2014/3/16 『憂鬱でなければ、仕事じゃない』 / 見城徹、藤田晋
2014/3/12 『恋文の技術』 / 森見登美彦
2014/3/6  『国境の南、太陽の西』 / 村上春樹
2014/2/28 『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』 / 福岡伸一
2014/2/23 『雪国』 / 川端康成
2014/2/17 『ロマンスドール』 / タナダユキ
2014/2/15 『それから』 / 夏目漱石
2014/2/11 『悩む力』 / 姜尚中
2014/2/5  『暗号解読<下>』(1) / Simon Lehna Singh
2014/1/31 『暗号解読<上>』 / Simon Lehna Singh
2014/1/26 『脳には妙なクセがある』 / 池谷裕二
2014/1/19 『何者』 / 朝井リョウ
2014/1/15 『ポースケ』 / 津村記久子
2014/1/13 駄文・2013年と2014年の読書について
2014/1/8  『×と○と罪と』 / RADWIMPS
2013/12/29  2013年ベスト
2013/12/23 『骨を彩る』 / 彩瀬まる
2013/12/18 『愛を振り込む』 / 蛭田亜紗子
2013/12/11 『あなたの前の彼女だって、むかしはヒョードルだのミルコだの言っていた筈だ』 / 菊池成孔
2013/12/4 『円卓』 / 西加奈子
2013/11/26 『暗い夜、星を数えて』 / 彩瀬まる
2013/11/24 『お父さん大好き』 / 山崎ナオコーラ
2013/11/16 『BEST2』 / TOMOVSKY
2013/11/10 『人のセックスを笑うな』 / 山崎ナオコーラ
2013/11/9 『困ってるひと』 / 大野更紗
2013/11/4 『ジ・エクストリーム・スキヤキ』 / 前田司郎
2013/11/3 『こころの処方箋』 / 河合隼雄
2013/10/27 『朗読者』 / Bernhard Schlink
2013/10/24  駄文・フーリエ変換について
2013/10/16 『ノーライフキング』 / いとうせいこう
2013/10/11 『東京百景』 / 又吉直樹
2013/10/7 『社会を変える驚きの数学』 / 合原一幸
2013/10/4 『楽園のカンヴァス』 / 原田マハ
2013/9/29 『ともだちがやってきた。』 / 糸井重里
2013/9/28 『若いぼくらにできること』 / 今井雅之
2013/9/21 『勝間さん、努力で幸せになりますか』 / 勝間和代 × 香山リカ
2013/9/17 『シャッター商店街と線量計』 / 大友良英
2013/9/8  『ハンサラン 愛する人びと』 / 深沢潮
2013/9/7  駄文・読書時間について
2013/8/31 『幻年時代』 / 坂口恭平
2013/8/26 『人間失格』 / 太宰治
2013/8/21 『天国旅行』 / 三浦しをん
2013/8/17 『野心のすすめ』 / 林真理子
2013/8/7  『フェルマーの最終定理』 / Simon Lehna Singh
2013/8/4  『本棚の本』 / Alex Johnson
2013/7/31 『これからお祈りにいきます』 / 津村記久子
2013/7/26 『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 / 山田詠美
2013/7/20 『殺戮にいたる病』 / 我孫子武丸
2013/7/15 駄文・どんでん返しミステリーについて
2013/7/15 『ツナグ』 / 辻村深月
2013/7/11 『岳物語』 / 椎名誠
2013/7/9  『黄金を抱いて翔べ』 / 高村薫
2013/7/2  『工場』 / 小山田浩子
2013/6/25 駄文・スマートフォンの功罪について
2013/6/22 『ぼくは勉強ができない』 / 山田詠美
2013/6/15 『少女は卒業しない』 / 朝井リョウ
2013/6/12 『死の壁』 / 養老孟司
2013/6/7  『卵の緒』 / 瀬尾まいこ
2013/6/6  『一億総ツッコミ時代』 / 槙田雄司
2013/5/28 『うたかた / サンクチュアリ』 / 吉本ばなな
2013/5/24 『ルック・バック・イン・アンガー』 / 樋口毅宏
2013/5/20 『クラウドクラスターを愛する方法』 / 窪美澄
2013/5/17 『けむたい後輩』 / 柚木麻子
2013/5/13 『あの人は蜘蛛を潰せない』 / 彩瀬まる
2013/5/10 駄文・本と精神について
2013/4/30 『想像ラジオ』 / いとうせいこう
2013/4/22 『あなたの中の異常心理』 / 岡田尊司
2013/4/10 『千年の祈り』 / Yiyun Li
2013/4/5  駄文・文学賞について
2013/3/31 『今夜、すべてのバーで』 / 中島らも
2013/3/22 『何もかも憂鬱な夜に』 / 中村文則
2013/3/13 『生物と無生物のあいだ』 / 福岡伸一
2013/3/10 駄文・紙と電子について
2013/3/2  『ウエストウイング』 / 津村記久子
2013/2/24 『ブッダにならう 苦しまない練習』 / 小池龍之介
2013/2/16 『みずうみ』 / よしもとばなな
2013/2/8  『何歳まで生きますか?』 / 前田隆弘
2013/2/3  『ワーカーズ・ダイジェスト』 / 津村記久子

工事中…

ブクログというサイトで読んだ本のログをつけています。
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ケチる貴方

『ケチる貴方』 / 石田夏穂

近所の絵本屋さん店主に勧められた一冊。2022年野間文芸新人賞受賞作品。著者・石田夏穂さんは初めて読んだ方でしたが、初期津村記久子さん作品のワーカーズ小説を彷彿とさせるような圧倒的リアリティと温度感とユーモア、めちゃ好きでした!!(続けざまに最新作も即買い)

 

『ケチる貴方』と『その周囲、五十八センチ』の2作から為る小説。

『ケチる〜』は年中冷え性に悩まされる主人公、『その周囲、〜』は太すぎる我が太ももに悩まされる主人公と、いずれも身近な問題ながら「そのテーマで物語として走り抜けるのか・・?」と不安になるような設定であるが、約100ページずつ飽きることなくきちっと小説として完成されてて感動した。

 

魅力は3点あって1点目はエンタメ性。前述の通りミニマルな設定で描きぬきつつ、自然な流れで感情もしっかり揺り動かしてくる。表題作では、人への親切心や思いやりを持つと己の身体が暖かくなる現象に気づいた主人公が、過去の自分とは打って変わって人間味を帯びていったり、『その周囲、』でも脂肪吸引足が細くなってくにつれ、同じく主人公が人間味を帯びていく。(行き着いた策が脂肪吸引ということの是非は一旦さておき)

 

2点目はワーカーズ小説としての異常なまでの設定の細部。各編の主人公は、備蓄用タンクの設計と施工を請け負う工事業者、及び配管設計エンジニアというあまりイメージしにくい設定にも関わらず、「著者の前職はこれだったのか?」と疑うほど細部がしっかり描かれていて、著者のぶっといこだわりや取材力みたいなものが感じられた。「設定がしっかりしている」という事実は、感情移入する上でストーリー性以上に大事だと思う。それを教えてくれたのは個人的には津村記久子さん作品なのですが、本作も著者もそのバイブスを持っていてすごく魅力的。

 

最後の3点目はユーモア。ここも先ほど書いた津村さん同様、決して無理ない温度感で挿し込まれる

私の羞恥心は太腿の直径に等しく、私の人生に対する悲哀は太腿の表面積に等しかった。

みたいな笑える表現が要所要所で光っている。ミニマルな設定な分眠くなる作品ってありがちやけど、本作に出てくるコンスタントなユーモアが眠さを感じさせず一気に読ませてくれる。

 

いやーー久々に新しい作家に出会えて嬉しい、、しばらく追います!

 

君が手にするはずだった黄金について

『君が手にするはずだった黄金について』 / 小川哲

ローカルな駅でふと時間ができて入ったブックファーストで購入した、本屋大賞候補にも選ばれた2023年爆売れ本。

 

前知識なく読み始めたが、滝口悠生さん『長い一日』のような、著者自身の実話をほぼそのまま小説に落とし込んだ形態。著者の経歴をみると東大卒!小説のストーリーうんぬんよりも、所狭しと出てくる著者のアタマの良さを楽しむような作品でした。

僕は、道に迷ったとき、適当にいろんな道に入っていき、知らない景色の中で試行錯誤するのが好きだ。悩み事があっても他人には相談せず、自分なりに解決の糸口を見つけようとする性格は、間違いなく創作の助けになっている。普遍的に言えば、「何かに困っているとき、その原因を調べて、自力で解決するのが好きだ」と言えるかもしれない。裏返すと、「いちいち他人に口出しされるのが好きではない」となる。

 

小説家に必要なのは才能ではなく、才能のなさなのではないか。普通の人が気にせず進んでしまう道で立ち止まってしまう愚図の性格や、誰も気にしないことにこだわってしまう頑固さ、強迫観念のように他人と同じことをしたくないと感じてしまう天邪鬼な態度。小説を書くためには、そういった人間としての欠損-ーある種の「愚かさ」が必要になる。何もかもがうまくいっていて、摩擦のない人生に創作は必要ない。

どの編をとっても、正直ストーリーとしてはあまり楽しめなかった。ただ、この良い意味で偏屈な作品が、その年を象徴するグランプリとなった本屋大賞の候補作というのは驚き。本作に全く関係ないが、今年の本屋大賞授賞式で、昨年受賞された凪良ゆうさんのスピーチがとても良かった。この20年で本屋は半数に激減してるという流れ、、ますます独立書店を応援したいと強く思いました。

金は払う、冒険は愉快だ

『金は払う、冒険は愉快だ』 / 川井俊夫

タイトルと装丁が去年から気になってた作品、本屋で見つけて即買い。元々アル中でホームレスだった著者が、古道具屋を営む中で出会う不思議な人々を描いたエッセイ。いやーーー文章力の為せる技! 面白く一気読みでした。

 

冒頭から汚い言葉の連打で、特に老人の客に対する「どうせお前らはもうじき死ぬだろクソ[ババア | ジジイ] 的スタンスはコレちょっと好きではないかも、、と始め眉を顰めてもうたが、読み進めるにつれドンドンとハマっていく。

理由は何に起因するんやろと考えると、ひとえに「言葉のまっすぐさ」に尽きるかもしれない。ここまで迷いのない、1人の人間に通った一本のスジというものを、本に限らずとも最近摂取することが中々なくて、とても新鮮に映った。

 

勿論個人的には日々逡巡し、正解/不正解に一喜一憂する泥臭い日記やエッセイが大好きです。自分を作品に投影して、勇気や感動をもらったりできるのが理由です、と、自信を持って言えます。

けれど本作は自分には無い、時に汚い言葉を使ってでも通すべきスジを通してる人間を目の前に、羨望の気持ちを抱けるのが魅力です。

死ぬ前になにか思い出せ。道具屋に買取ってもらうのに相応しいなにかがまだあんたの人生に残されてるかも知れない。忘れるなよ。毎日五分間、思い出すために集中する時間を作るんだ。そしていつか俺の名刺を握りしめて死ね。

 

離島の果てで死んだように生きていた頃、突然現れた今の妻に救われたエピソードは「ホンマか?」と疑うほど映画的で引き込まれた。途中、著者が190cm100kg、配偶者が145cm38kgという定量的な大小の対比が出てきて思わず笑ったが、世の中にはホント不思議な関係性の人々がいるんやなぁ、、としみじみ思った。当たり前やけど本作は川井さんの著者故に川井さん視点でしか過去エピソードについて知らされないけど、配偶者視点の川井さん伝もぜひ読みたいと思わされた。

俺は家族のことなんて考えていない。生命保険に入ってる。商売がダメになったら死ねばいい。惨めで悲しい気持ちになるかもしれないが、それだけだ。妻や娘の悲しむ顔を想像したりもしないし、俺の世界では俺の意思より大切なものは存在しない。

腹を空かせた勇者ども

『腹を空かせた勇者ども』 / 金原ひとみ

『アンソーシャルディスタンス』以来の金原ひとみさん。著作を毎回追ってるワケではないが、「新境地!」と呼んで差し支えないような、初期綿矢りささん作品を彷彿とさせるような痛快な小説でした。

 

 

「新境地!」と感じたのは、これまでの著者の小説やエッセイ通り、世の中への疑問や怒りを母親という役を通してドロッドロに投げかけながらも、主人公レナレナがそれらドロドロの塊に対して更なる真っ直ぐな疑問を返してくるから、最終的に物語がポジティブな方向に進む点。疑問を呈する姿勢と読み手の気持ちよさ、小説ってそのいずれかに偏りがちやと思うけど、本作は見事にバランス取れてて「こんなこと出来るんか、、!」と驚いた。

 

人の親切とか正義感は、必ずしもいいものとは限らない、あるいは裏の意味がある、という意味っぽかった。どうして親切と思ったことを、正義感に感動したことを、疑わなきゃいけないんだろう。どうして親切にしたいとき、正義感に突き動かされるときに、深読みされるかもって心配しなきゃいけないんだろう。

 

あと中高生視点なので「えそれマジ?」的な若者言葉で文が進むが、お子さんがいるからか或いは金原さん自身のアンテナが優れてるからか、その崩し方もごく自然で気にせず読み進められた。一方で哲学書如く繰り出される母親からの論理も、こんな奴おらんやろと思いつつ魅力的なキャラで、その辺も無理のない小説という感じ。

 

レナレナのまっすぐな疑問や怒りに対する母親のアンサーは、変な話、将来ウェアラブルバイスを通してやり取りされるであろう生成AIとの対話を想起させられた。曖昧な問いに対する理屈っぽい回答の感じが正にそれ。母親の言ってることは、もう至極正論でぐうの音も出ない。けど「人の心情なんてそう簡単に片付かないだろ!」と割り切らないレナレナの感情こそ大事にしたいと思えたし、そこは金原さん確信犯やと感じた。

 

あわよくば最後、もう少し母親の内面に焦点が当たってほしかった。何故母親がこういう思想で、そして何故実娘のレナレナが真逆の思想なのか、そのあたりほぼ明かされんまま(それも確信的やろけど)全て読み手に委ねる形で終わっちゃったので少し寂しかった。

けど素晴らしい作品、売れてる作家はやぱ違うぜ!

速く、ぐりこ!もっと速く!

『速く、ぐりこ!もっと速く!』 / 早乙女ぐりこ

毎巻必ず購入してる、フィジカル的な満足度が極めて高い紙の本を出版されてる百万年書房の新作。1作目の堀静香さん『精いっぱいの悪口』から個人的にはあまりヒットが無かったが、今作は素晴らしかった、、初めて読んだ早乙女ぐりこさんのエッセイ+日記。

 

タイトル通り、生き急ぐようなスピードと燃え尽きるようなアツさで日常を生きる著者の姿が描かれている。元カレに自死され、婚約者と破局し、マッチングアプリで出会った男に既婚者であることを隠されていたといった恋愛エピソードが矢継ぎ早に出てくる。そういった類のエッセイは今まであまりビシッと来たことが無かったが、本作はとにかくユーモラスで軽妙な表現がうま過ぎてガツガツと読み進められた。

村上春樹作品の女性蔑視的な表現をスルーできてしまうような人となんか絶対に付き合いたくないと思うのに、村上春樹のタイトルがぎっしり並んだ本棚の写真を見かけたらLIKEせずにはいられない。

 

酸いも甘いも自分丸ごと描き切ってしまうオープンマインドさがとかく気持ちいい。植本一子さんや金原ひとみさんとかにも同じ印象を持ってるが、(比較するもんではないが)早乙女さんはあの方々以上に開かれてて、文章からより「必要に駆られて書かなきゃ感」を強く感じた。

性別も境遇も思想も自分とは全く違う方やのに、そういったエッセイに惹かれるんは何故やろう。おそらく自分とは異なるからこそ、自分にないものを求める・羨ましく思うという感情から来るもんな気がする。著者も人間的にかなり欠落してるし、ここまで描くと日常や人間関係に支障来たすやろと心配するほど赤裸々やけど、それは自分には決してできない昇華のさせ方やなと感動すら覚える、その点でこういったエッセイ/日記に惹かれるんやなと今回改めて思い知った。

誰よりも強くなりたかった。他人にどう思われても構わなかった。精密機械になりたいと本気で思っていた。

繰り返しになるが、タイトル通り猛スピードで生き抜く著者の気持ち良い文章を堪能できる作品。商業出版は今作が初らしいがこれからも出していってほしいと思える方です。