bookworm's digest

33歳二児のエンジニアで、日記をずらずら書いていきます

記事一覧 ブログ内ランキング 本棚

2015/09/20 『孤独か、それに等しいもの』 / 大崎義生
2015/09/17 『今日を歩く』 / いがらしみきお
2015/09/16 『ケンブリッジ・クインテット』 / ジョン・L・キャスティ
2015/09/06 『裸でも生きる2』 / 山口絵理子
2015/09/02 『数学的にありえない(下)』 / アダム・ファウアー
2015/08/30 『だから日本はズレている』 / 古市憲寿
2015/08/28 『数学的にありえない(上)』 / アダム・ファウアー
2015/08/18 『僕は問題ありません』 / 宮崎夏次系
2015/08/16 『世界の終わりと夜明け前』 / 浅野いにお
2015/08/13 『ワイフ・プロジェクト』 / グラム・シムシオン
2015/08/13 『伊藤くんA to E』 / 柚木麻子
2015/07/30 『断片的なものの社会学』 / 岸政彦
2015/07/25 『雨のなまえ』 / 窪美澄
2015/07/22 『愛に乱暴』 / 吉田修一
2015/07/19 『ナイルパーチの女子会』 / 柚木麻子
2015/07/15 『ひらいて』 / 綿矢りさ
2015/07/13 『るきさん』 / 高田文子
2015/06/24 『装丁を語る。』 / 鈴木成一
2015/06/16 『春、戻る』 / 瀬尾まいこ
2015/06/13 『かわいそうだね?』 / 綿矢りさ
2015/06/12 『未来国家ブータン』 / 高野秀行
2015/06/09 『存在しない小説』 / いとうせいこう
2015/06/02 『帰ってきたヒトラー』 / ティムールヴェルメシュ
2015/05/31 『流転の魔女』 / 楊逸
2015/05/21 『火花』 / 又吉直樹
2015/05/19 『あと少し、もう少し』 / 瀬尾まいこ
2015/05/17 『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』 / 古市憲寿、上野千鶴子
2015/05/02 『切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』 / 佐々木中
2015/04/26 『恋するソマリア』 / 高野秀行
2015/04/25 『アル中ワンダーランド』 / まんしゅうきつこ
2015/04/23 『レンタルお姉さん』 / 荒川龍
2015/04/17 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 / J.D.サリンジャー
2015/04/12 『しょうがの味は熱い』 / 綿矢りさ
2015/04/07 『ペナンブラ氏の24時間書店』 / ロビン・スローン
2015/03/26 『せいめいのはなし』 / 福岡伸一
2015/03/25 『やりたいことは二度寝だけ』 / 津村記久子
2015/03/21 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下)』 / 増田俊也
2015/03/14 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上)』 / 増田俊也
2015/03/06 『元職員』 / 吉田修一
2015/02/28 『黄金の少年、エメラルドの少女』 / Yiyun Li
2015/02/23 『太陽・惑星』 / 上田岳弘
2015/02/14 『迷宮』 / 中村文則
2015/02/11 『僕は君たちに武器を配りたい』 / 滝本哲史
2015/02/08 『斜光』 / 中村文則
2015/02/04 『この人たちについての14万字ちょっと』 / 重松清
2015/01/27 『名もなき孤児たちの墓』 / 中原昌也
2015/01/18 『満願』 / 米澤穂信
2015/01/15 直木賞
2015/01/15 『Hurt』 / Syrup16g
2015/01/14 『地下の鳩』 / 西加奈子
2015/01/10 『きょうのできごと』 / 柴崎友香
2015/01/05 『月と雷』 / 角田光代
2015/01/02 『カワイイ地獄』 / ヒキタクニオ
2014/12/31 『死んでも何も残さない』 / 中原昌也
2014/12/30  2014年ベスト
2014/12/18 『サラバ!下』 / 西加奈子
2014/12/13 『サラバ!上』 / 西加奈子
2014/12/12 『できそこないの男たち』 / 福岡伸一
2014/12/4 『ザ・万歩計』 / 万城目学
2014/12/1 『ぼくには数字が風景に見える』 / ダニエル・タメット
2014/11/25 『アズミ・ハルコは行方不明』 / 山内マリコ
2014/11/19 『勝手にふるえてろ』 / 綿矢りさ
2014/11/13 『ジャージの二人』 / 長嶋有
2014/11/6 『8740』 / 蒼井優
2014/11/5 『計画と無計画のあいだ』 / 三島邦弘
2014/10/31 『問いのない答え』 / 長嶋有
2014/10/29 『ジュージュー』 / よしもとばなな
2014/10/20 『Bon Voyage』 / 東京事変
2014/10/17 『女たちは二度遊ぶ』 / 吉田修一
2014/10/15 『カソウスキの行方』 / 津村記久子
2014/10/10 『69(シクスティナイン)』 / 村上龍
2014/10/3 『論理と感性は相反しない』 / 山崎ナオコーラ
2014/9/28 『最後の家族』 / 村上龍
2014/9/25 『グラスホッパー』 / 伊坂幸太郎
2014/9/23 『エヴリシング・フロウズ』 / 津村記久子
2014/9/13 『神様のケーキを頬ばるまで』 / 彩瀬まる
2014/8/23 『西加奈子と地元の本屋』 / 西加奈子・津村記久子
2014/8/10 『蘇る変態』 / 星野源
2014/8/4  『ジョゼと虎と魚たち』 / 田辺聖子
2014/7/31 『マイ仏教』 / みうらじゅん
2014/7/23 『オールラウンダー廻』 / 遠藤浩輝
2014/7/17 『ゴールデンスランバー』 / 伊坂幸太郎
2014/7/16 『百万円と苦虫女』 / タナダユキ
2014/7/8  『人生エロエロ』 / みうらじゅん
2014/6/28  駄文・本を読まない場合
2014/6/8  『平常心のレッスン』 / 小池龍之介
2014/6/5  『僕らのごはんは明日で待ってる』 / 瀬尾まいこ
2014/5/27 『泣き虫チエ子さん』 / 益田ミリ
2014/5/25 『動的平衡2 生命は自由になれるのか』 / 福岡伸一
2014/5/14 『春にして君を離れ』 / アガサ・クリスティー
2014/5/9  『統計学が最強の学問である』 / 西内啓
2014/5/1  『不格好経営』 / 南場智子
2014/4/27 『きみの友だち』 / 重松清
2014/4/22 『善き書店員』 / 木村俊介
2014/4/15 『人生オークション』 / 原田ひ香
2014/4/8  『疲れすぎて眠れぬ夜のために』 / 内田樹
2014/4/1  『戸村飯店 青春100連発』 / 瀬尾まいこ
2014/3/28 『完全なる証明』 / Masha Gessen
2014/3/22 『渾身』 / 川上健一
2014/3/16 『憂鬱でなければ、仕事じゃない』 / 見城徹、藤田晋
2014/3/12 『恋文の技術』 / 森見登美彦
2014/3/6  『国境の南、太陽の西』 / 村上春樹
2014/2/28 『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』 / 福岡伸一
2014/2/23 『雪国』 / 川端康成
2014/2/17 『ロマンスドール』 / タナダユキ
2014/2/15 『それから』 / 夏目漱石
2014/2/11 『悩む力』 / 姜尚中
2014/2/5  『暗号解読<下>』(1) / Simon Lehna Singh
2014/1/31 『暗号解読<上>』 / Simon Lehna Singh
2014/1/26 『脳には妙なクセがある』 / 池谷裕二
2014/1/19 『何者』 / 朝井リョウ
2014/1/15 『ポースケ』 / 津村記久子
2014/1/13 駄文・2013年と2014年の読書について
2014/1/8  『×と○と罪と』 / RADWIMPS
2013/12/29  2013年ベスト
2013/12/23 『骨を彩る』 / 彩瀬まる
2013/12/18 『愛を振り込む』 / 蛭田亜紗子
2013/12/11 『あなたの前の彼女だって、むかしはヒョードルだのミルコだの言っていた筈だ』 / 菊池成孔
2013/12/4 『円卓』 / 西加奈子
2013/11/26 『暗い夜、星を数えて』 / 彩瀬まる
2013/11/24 『お父さん大好き』 / 山崎ナオコーラ
2013/11/16 『BEST2』 / TOMOVSKY
2013/11/10 『人のセックスを笑うな』 / 山崎ナオコーラ
2013/11/9 『困ってるひと』 / 大野更紗
2013/11/4 『ジ・エクストリーム・スキヤキ』 / 前田司郎
2013/11/3 『こころの処方箋』 / 河合隼雄
2013/10/27 『朗読者』 / Bernhard Schlink
2013/10/24  駄文・フーリエ変換について
2013/10/16 『ノーライフキング』 / いとうせいこう
2013/10/11 『東京百景』 / 又吉直樹
2013/10/7 『社会を変える驚きの数学』 / 合原一幸
2013/10/4 『楽園のカンヴァス』 / 原田マハ
2013/9/29 『ともだちがやってきた。』 / 糸井重里
2013/9/28 『若いぼくらにできること』 / 今井雅之
2013/9/21 『勝間さん、努力で幸せになりますか』 / 勝間和代 × 香山リカ
2013/9/17 『シャッター商店街と線量計』 / 大友良英
2013/9/8  『ハンサラン 愛する人びと』 / 深沢潮
2013/9/7  駄文・読書時間について
2013/8/31 『幻年時代』 / 坂口恭平
2013/8/26 『人間失格』 / 太宰治
2013/8/21 『天国旅行』 / 三浦しをん
2013/8/17 『野心のすすめ』 / 林真理子
2013/8/7  『フェルマーの最終定理』 / Simon Lehna Singh
2013/8/4  『本棚の本』 / Alex Johnson
2013/7/31 『これからお祈りにいきます』 / 津村記久子
2013/7/26 『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 / 山田詠美
2013/7/20 『殺戮にいたる病』 / 我孫子武丸
2013/7/15 駄文・どんでん返しミステリーについて
2013/7/15 『ツナグ』 / 辻村深月
2013/7/11 『岳物語』 / 椎名誠
2013/7/9  『黄金を抱いて翔べ』 / 高村薫
2013/7/2  『工場』 / 小山田浩子
2013/6/25 駄文・スマートフォンの功罪について
2013/6/22 『ぼくは勉強ができない』 / 山田詠美
2013/6/15 『少女は卒業しない』 / 朝井リョウ
2013/6/12 『死の壁』 / 養老孟司
2013/6/7  『卵の緒』 / 瀬尾まいこ
2013/6/6  『一億総ツッコミ時代』 / 槙田雄司
2013/5/28 『うたかた / サンクチュアリ』 / 吉本ばなな
2013/5/24 『ルック・バック・イン・アンガー』 / 樋口毅宏
2013/5/20 『クラウドクラスターを愛する方法』 / 窪美澄
2013/5/17 『けむたい後輩』 / 柚木麻子
2013/5/13 『あの人は蜘蛛を潰せない』 / 彩瀬まる
2013/5/10 駄文・本と精神について
2013/4/30 『想像ラジオ』 / いとうせいこう
2013/4/22 『あなたの中の異常心理』 / 岡田尊司
2013/4/10 『千年の祈り』 / Yiyun Li
2013/4/5  駄文・文学賞について
2013/3/31 『今夜、すべてのバーで』 / 中島らも
2013/3/22 『何もかも憂鬱な夜に』 / 中村文則
2013/3/13 『生物と無生物のあいだ』 / 福岡伸一
2013/3/10 駄文・紙と電子について
2013/3/2  『ウエストウイング』 / 津村記久子
2013/2/24 『ブッダにならう 苦しまない練習』 / 小池龍之介
2013/2/16 『みずうみ』 / よしもとばなな
2013/2/8  『何歳まで生きますか?』 / 前田隆弘
2013/2/3  『ワーカーズ・ダイジェスト』 / 津村記久子

工事中…

ブクログというサイトで読んだ本のログをつけています。
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クラインの壺

 

クラインの壷 (新潮文庫)

クラインの壷 (新潮文庫)

 

 

クラインの壺』   /     岡嶋二人

 

★    ×    85

 

内容(「BOOK」データベースより)
ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は…。現実が歪み虚構が交錯する恐怖。

 

量子革命 - bookworm's digest』で3週間ほど量子の世界にズブズブになって疲れていたので、ちょっとエンタメをと思い、不朽のミステリーと呼ばれる本作を読みました。

岡嶋二人さん、『99%の誘拐』を大昔に読んで以来多分2回目でしたが、何となくこんな文体だったなぁというのを思い出しました。

 本作はかなりゲームに依った話で個人的にはそこまでハマりませんでしたが、本作が出た20年前を考えると脱帽するしかない先見性で驚きました。

 

とある会社が開発した「クライン2」という試作ゲームの原作者である上杉が主人公。

上杉、そしてアルバイトとして応募してきた梨沙の2人は、治験としてクライン2を実践します。

クライン2とは簡単にいうと「全身VR」。

HMDで視覚を覆って仮想現実を体験するのが現代なら、全身をHMDで包んで、視覚のみならず痛覚や嗅覚もすべて仮想現実にし、ゲームの世界に体ごと置かれた感覚でゲームを進めるのがクライン2です。

今でこそ民生品でもメジャーなVRの世界なのでイメージは難くないですが、本作は1980年代に出たということにまあ驚き!

いとうせいこうさんの『ノーライフキング - bookworm's digest』を読んだ時も時代先取り感に圧倒されましたが本作も同様。

これをリアルタイムの時代に読んでいたら、もっと想像が膨らんでより楽しめただろうなぁと思います。

 

 

んであらすじは、次第にゲームの世界と現実を区別できなくなっていくという、これまた現代だと本でも映画でもまあよくある展開で、現代に読んだ私には決して新鮮なものでは無かったですが、

何度も言うように「30年前に読んでいたら、、」というやつです。(以下省略

 

 

不朽のミステリーとは、当時誰もなし得なかった新しさ故なのでしょう。

ゲーム性高いストーリーが好きな人は文句無しで楽しめる小説と思います。

 

量子革命

 

量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)

量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)

 

 

 

『量子革命』    /    マンジットクマール

 

★   ×    93

 

内容(「BOOK」データベースより)
20世紀に生まれた量子論は、ニュートン以来の古典的な世界像をいかにして一変させたのか?ノーベル賞受賞者たちの人間ドラマとその思考の軌跡を、舌を巻く物語術で描き切った驚異のポピュラー・サイエンス。量子の謎に挑んだ天才物理学者たちの100年史。

 

 

フェルマーの最終定理 - bookworm's digest暗号解読<下> (1) - bookworm's digest』などで、著者サイモンシンさんの唯一無二さを知ったと同時に、青木薫さんという、数学なぞ難解な分野でまさかの心躍らせてくれる訳を与えてくれる訳者さんも知り、一時期数学ロマンに精神ヤられた私ですが、

久々にどっぷり浸かりたいと思い、同じく青木薫さん訳である本書を手に取りました。

 

 

量子力学

 

学部の授業で基礎的な知識は学んだものの、本質を知るまでには至らず、結局は教えられた方程式を解いて何とか単位を取れた記憶しかないこの分野、

けれど時たま聞こえてくるこの理解しがたい世界(シュレーディンガーの猫 - Wikipedia なんて厨二の賜物)が青木薫さんにかかれば果たしてどうなるかと期待して読みましたが、

やっぱサイコー!!!ノンフィクションなのにエンタメすぎ!!!!

  

 

 本作は、過去長年に渡って完全な理論として君臨していた古典力学が、量子の世界では成り立たないという事実の発覚から、「量子力学」という1つの分野に立つまでの偉人たちの苦悩を描いたノンフィクション。

古典力学とは、学生時代誰もが習った「慣性の法則」「運動方程式」など、物体の速度や位置や運動量が一意に決まるという、あのニュートン様が打ち立てた絶対的な法則などを指します。

普段生きてて目にするものは全てこれに則ってますし、だから野球選手はフライをキャッチできるし、私は自転車を転ばずに運転できる。

ただし量子の世界、原子よりも小さい宇宙においてはこれが成り立たない。

例えばある時刻に秒速 1m/s で動く物質は、1秒後に 1m 進んでいるハズですが、

量子は違います。1秒後にどこにいるかは誰も分からないし、かと言って1秒後に 1m 進んだところにいる可能性もある。

という、もう一休さんの屁理屈のような世界で非常にキャッチーなんですが、ちょっと数式を覗くともうお手上げ、ザックリ言うとそんな分野と思います。

 

この分野が生まれる時に活躍した偉人として、教科書でも習ったようなシュレディンガーディラック、パウリ、ハイゼンベルク、ボルンといった錚々たる若手(そう、当時みんな24歳とかなんですよね、、まずそのことにおじさん驚きでした)たちが、瞬間移動し続ける量子に翻弄されながらも、観測と思考実験を繰り返して真実を見出して行く様が、序盤から中盤にかけてタップリと解説されています。

中身が非常に濃く、はっきり言ってかなり疲れるのですが、時折現れる青木薫さんの

時間と空間は堅い枠組みであり終わりのない舞台

 ニュートンの宇宙は完全なる決定論の世界であり、そこに偶然の出る幕は無い

などといったかっこよすぎる表現に何度もヤられながらなんとか読み進めているうち、

 

後半、「不確定性原理」という、想像の斜め上を行く理論が浮上したのち、古典物理学から量子力学へにわかに倒れ出していくスピード感は圧巻!!

不確定性原理は簡単に言うと、

 

「量子の世界は目に見えてるものがすべて。それ以外は知らない。」

 

という何とも投げやりな原理。

つまり科学者たちがスーパー分解能の測定機器をふんだんに使ったとしても、観測と観測の狭間には人間には見ていない世界があり、そこでの量子の振る舞いは神のみぞ知るというもの。

量子は波(連続的なもの)でも粒(離散的なもの)のどちらか一方のみの性質ではなく、どちらの性質も以って初めて完成するという、

数学でいう「解: 解なし」と言った肩透かしを、絶対論として信じられていた物理学の世界でも打ち立てたのが、この量子力学です。

 

んで後半、知の巨人たちが一堂に会した「コペンハーゲン解釈」と呼ばれる会議が本作のハイライト。

ここでは、前述のスーパーエリートたちの更に頂点に君臨する、ボーアとアインシュタインの対決が描かれています。

ボーアとは量子力学のいわゆる番長で、基礎を作り上げた量子界のドン。

一方アインシュタインは言わずもがな、相対性理論という、これまた物理の常識を根底から覆す理論を打ち立てた天才中の天才。

会議ではボーアの量子論に対し、アインシュタインがその矛盾を突く思考実験をぶつけ、それに対しボーアが再び量子論で打ち砕くという、知と知のぶつかり合いが幾度となく描かれています。

正直一般的には舌を出すアインシュタインの無邪気な写真が先行していますし、ボーアよりも知名度が高いですが、そのアインシュタインを両手広げて全力で迎え撃ち、自分が打ち立てた量子論で以って最終的に制止続けるという姿がカッコよすぎるし、

アインシュタインの、既に富も名声も得た科学者が、何度も説き伏せられながらも、負けず嫌いの子どものように再び別の視点から立ち向かって行く姿がカッコよすぎるし、

この2人の闘いもずっと見ていたいという、アクション映画鑑賞中みたいな気持ちになりました。(あ、議論自体は難解すぎて半分も理解できませんでしたが笑)

 

 

1つの学問が生まれる過程でこんなにも知の巨人たちがぶつかり合い、苦悩し合ってこの世の真実を暴いていくというのは、量子力学に限らず様々は分野で行われてきたイニシエーションなんでしょう。

事実は小説よりも奇なりとは良く言ったもので、小説家がどんなに奇をてらった展開を思いついたとしても、ノンフィクションを越えてこないということをまざまざと思い知らされました。

理系の方、そして興味のない文系の方も理解しがたいなりに読んで欲しい超エンタメ作品でした!

 

アジアンタムブルー

 

 

アジアンタムブルー (角川文庫)

アジアンタムブルー (角川文庫)

 

 

 

アジアンタムブルー』    /    大崎善生

 

★    ×    80

 

内容(「BOOK」データベースより)
葉子を癌で失ってからというもの、僕はいつもデパートの屋上で空を見上げていた―。万引きを犯し、衆人の前で手酷く痛めつけられた中学の時の心の傷、高校の先輩女性との官能的な体験、不倫による心中で夫を亡くした女性との不思議な縁、ファンの心を癒すSMの女王…。主人公・山崎が巡りあった心優しき人々と、南仏ニースでの葉子との最後の日々。青春文学の名作『パイロットフィッシュ』につづく、慟哭の恋愛小説。

 

 

大崎善生さん、過去に絶対なにか読んだことあると思い、ブクログmixiと漁ってみたところ、『孤独か、それに等しいもの』という小説を数年前に読んでいました(内容は全く覚えていませんが、、)。

本作は『世界の中心で愛をさけぶ』が思い起こされるド直球恋愛小説、個人的にはあまり刺さらず、、

 

 

内容は前述の通り、恋人である葉子が病死した主人公・山崎の現在と回想を織り交ぜた小説。

前半は葉子については多く語られず、どちらかというと山崎が万引きしたエピソードや、初めて性器を見せてくれた女性が自殺したエピソードなど、山崎の人格を形作るための話が中心です。

そして後半がほぼほぼ葉子と話。出会い、付き合い、病気が発覚してからニースで死を迎えるまでの一部始終が描かれています。

 

私が少し残念だったのが、まあ単に私の読み取り方が素人なんでしょうが、前半に出てくる山崎の変わったエピソードが、後半に特に活かされることなく、単なる紹介で終わった(ように感じた)点。

教室で性器を見せてくれた女性が自殺するシーンなんて、まるでAVみたいで意味不明で、一体この体験が山崎のその後にどう影響するのか!?と期待して読んだのに、特に発展が見られることはありませんでした。

こうなると、まるで性描写で読者を刺激しただけのように見えて、その後のSM女王の描写や、デパートの屋上でセックスアピールしてくる女性とかも全部そういう風に受け取ってしまいました。

 

エロ(やグロ)は人間の本質を描くために必要、という話は聞いたことがありますが、本作のエロは客寄せパンダに見えなくもないと思ってしまいました。。

 

 

すいません批判だらけになってしまいました。

ここ最近恋愛小説で良いと思ったものになかなか出会えず。それは単に私が年老いただけなのかという悲しい事実、、

いい恋愛小説があればどなたか教えてください。

 

おかあさんの扉

 

おかあさんの扉 (オレンジページムック)

おかあさんの扉 (オレンジページムック)

 

 

 

『おかあさんの扉』    /    伊藤理佐

 

★    ×    87

 

(この商品について)
伊藤理佐、40歳で母になる! 産休明け第1弾は、日々成長する我が子の姿をライブ感覚で描く失笑、苦笑、爆笑の三重笑4コマ144連発。 雑誌『オレンジページ』の人気連載が一冊になりました。 オットの人・吉田戦車さんの書きおろしコラム「おとうさんの扉」5本つき。

 

 重たい洋書を立て続けに読んでいたので、心を軽くするために育児漫画を。

吉田戦車さんの奥様であり同じく漫画家、伊藤理佐さんが子供を産んでから約2年間の育児奮闘記を4コマで描いた作品です。

伊藤理佐さん、名前しか知らず読んだのは初めてでしたが、絵もユーモアもすごく素敵でした。

ママはテンパリスト - bookworm's digest』ほどの衝撃(笑撃)はなかったものの、子どもが産まれ育っていく過程で感じる感動と、漫画家ならではのブラックな切り口が共存していました。

 

とにかく笑ったのは中盤に畳み掛けられた「たこ焼きマンヴォ」事件、、笑

母親が「たこ焼きー」と言うと、赤ちゃんが「マンヴォ!」と応答してくれるという可愛らしいエピソードですが、時に赤ちゃんに裏切られたり、「たこ焼き」無くとも初めて「マンヴォ!」と言ったり、など、いろんなバリエーションを全て4コマに構成しているのが素晴らしい!

赤ちゃんの行動って本当に想像の斜め上なので、理解不能な行動を取っているのを見たときの「あぁ!この理解不能な可笑しさを誰かと共有したい!」と言った気持ちをしょっちゅう味わうのですが、こうやって漫画家が進んで描いてくれると、「分かるわ〜!」と共感できてニマニマしてしまいます。

 

 

ただ他の方のレビューを読む限り、伊藤理佐しん、出産前の作品はもっと鋭い切り口らしく、「らしくない」「やはり出産は人を丸くする」など辛辣なレビューが並んでいました。

私は初著者だったので楽しく読めましたが、伊藤理佐さんを知るには他の作品も読んでみる必要がありそうです。

 

 

 

独りでいるより優しくて

 

独りでいるより優しくて

独りでいるより優しくて

 

 

『独りでいるより優しくて』   /    イーユンリー

 

★    ×    88

 


内容(「BOOK」データベースより)
一人の女子大生が毒を飲んだ。自殺か、他殺か、あるいは事故なのか。事件に関わった当時高校生の三人の若者は、その後の長い人生を毒に少しずつ冒されるように壊されていく―凍えるような孤独と温かな優しさを同時に秘めたイーユン・リーの新作長編。

千年の祈り(2013/4/13投稿) - bookworm's digest』『黄金の少年、エメラルドの少女 - bookworm's digest』以来、2年ぶりのイーユンリーさん。

前2作はいずれも短編だったので長編は今回が初、更にあらすじだけを読むと「え、ミステリー!?」と読む前からいろいろ想像して読み始めましたが、

やはりイーユンリーさん、読んでる時、読んだ後の、窓から見える景色を薄めで眺めたくなるような虚無感(なんだそりゃ)を何度も味わって、オンリーワンだなぁと感激しました。

 

あらすじは前述の通りで、長い間病床にいた後に亡くなった少女に関係する友人3人の視点から描かれる物語。

物語の大半は少女が亡くなってから20年経過したのちの3人から語られていますが、作中何度も学生時代など過去のシーンを行き来します。

3人は少女の死後、それぞれ全く異なる環境で時間を過ごしており、対面で会うことなく、けれど少女の死は心のどこかに常駐しています。

 

その死がチラつくからか、はたまたこれまでの作品同様著者のオンリーワンからかは分かりませんが、物語は初めから終わりまでずっと物悲しい。

けれどその物悲しさって、何も作中の3人だから特別にあるものでなくって、読んでるこっち側にも同じようなやるせなさあるよねって語りかけてくるようでした。

語りかけてくるのは勿論小説の裏側にちらつくイーユンリーさん自身で、話の展開とは別に、登場人物の心情描写に乗って何度も何度も襲ってきます。

 

答えに興味はなかったが、質問をすると相手への支配力が得られるのを知っていた。人々は答えを言う瞬間、質問者から評価される立場にあることを知らない。

 

恥をかかせたい衝動や辱めたい衝動は、優しくしたい衝動と変わらないほど当てにならないものだ。どんな感情も他者を、こちらが設定していた立場から引き離すから。

 

一文一文を自分の鉛筆で改めて書き下して咀嚼したいほど哲学めいたもので、けれど小説というプロットを追うジャンルであることもあり(ページ数が多いこともあり、、)、分かったような気になって読み進めましたが、

 

最後の最後、起伏のなかったそれまでを晴らすように、3人のうち2人が遂に対面します(この、全員じゃなく2人ってのもまた憎いですが)。

しかもここでも、結局事件の真相が完全には明かされないまま小説は終わってしまいます。

このボリュームで幾度となく繰り返される3人の心情描写がありつつも、物語自体はほぼファジーなまま。ポツンと取り残されたような感覚でした。 

けど、このかんじ、『黄金の少年、〜』でも味わったこの感じがオンリーワンなんだろうなぁ。

たまに著者の作品に触れることは、ドタバタしている日常を正してくれるようで、大事なことだと感じました。オススメ!