『スウィングしなけりゃ意味がない』 / 佐藤亜紀
★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
一人の少年の目を通し、戦争の狂気と滑稽さ、人間の本質を容赦なく抉り出す。権力と暴力に蹂躙されながらも、“未来”を掴みとろうと闘う人々の姿を、全編にちりばめられたジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。
初作家・佐藤亜紀さん。装丁からして洋書かと思いましたが、54歳の日本の方でした。
キョーレツな描写あり、悲しみあり、私の感情をスウィングさせてくれた見事な長編でした、オススメ!
主人公エディは、お国のために兵役へ行くような時代の流れに逆らって、敵性音楽であるスウィング(ジャズ)に夢中な少年。
天才的な音楽家の友人たちと一緒に、日々踊ってラリって女と遊んで、絵に描いたようなヤンチャボーイの生活が描かれているのが前半です。
「ユーゲント」「ゲシュタポ」「ナチ」などと言った、聞いたことはあるけれど馴染みのない用語がたくさん出てくるので、まさに洋書を読むときの「育ってきた環境が違うから(セロリ)」分からない感覚を味わいました。
また、結構な頻度でジャズミュージックの曲名や歌詞が出てくるのですが、てんで無知なので全く理解できず、中盤までなかなか進まないページに若干飽きを感じました。
ただ、タイトルや装丁、前半のノリから、なんとなく最後にはエディたちが「戦争なんてまっぴらだ!プップー!(ラッパ音)」みたいな巨大コンサートを開いてカタルシス、みたいな青春ものを想像していたので、まあそれまでは頑張って読もうと思っていたんですが、
6章『残念なのは誰?』で、鑑別所送りになったエディが強制労働させられ、
7章『赤い帆に黒いマストの船』の最後に戦争が激化してからの様相はジェットコースターのようで一気読みでした。
『残念なのは誰?』では、鑑別所で側頭部がパックリ割れ、全ての爪を剥がれるような激しい拷問を受けたあと、エディは強制労働させられます。
そこでは食事もない状態でひたすら芋を掘らされ続ける、まさに人間の尊厳を削ぐ行為を強制させられ、次々と労働者が死んでいきます。
読みながら「大人しく兵役へ行ってくれ、、」とさえ思いましたが、
本作で初めて知った佐藤亜紀さん、心に刺さる言葉のプロで、特に拷問中に放ったエディの言葉がめちゃめちゃスウィングしてた(?)ので引用しときます。
ぼくたちのことなんか放っておけばいいんだって。わざわざしょっ引いて。痛めつけて。前にお会いした時はもう少しお元気そうでしたよね、パウルさん?こいつらは早晩終りだ。働きすぎて、薬飲みすぎて、最後は目を開いたまんま全身掻き毟ってるできものだらけのヤク中になって終り。完全に無意味なことのために人間が使い潰されるのを、ぼくは見てる訳だ。おお、パウル、パウル、正直に言えよ、
こんな国、糞だろ?
また、戦争が激化し、黒い雨と人が毎晩降っては落ち、街は燃えて焼け焦げた死臭、そしてエディの両親は地下シェルターで死んでしまいます。
拷問されても心折れなかったエディですが、度重なる悲しみに、前半の勢いは萎んでしまいます(同時に私も心が痛くて辛かった、、)。
けれどここでも著者・佐藤亜紀さんの文章は、なんどもエディを(そして私を笑)立ち上がらせる力強さがあり、後半はなんども心震えました。
正しいのはこっちだ。ホールいっぱいの客が望む音楽を、国は邪魔できない。正しさの方が国より上だ。
いや、戦争が終るとかそういうこと、おれはもう考えられないからさ、
なんかもう今しかない、って言うか。先のこととか全然考えられなくなった。
時代も国も違ってとっつきにくいけれど、感じるのは結局「今に満足するな、流されるな!」という万国共通のメッセージで、佐藤亜紀さんの本作から流れ出るそれは本当に力強くて、戦争ものにも関わらず物凄く勇気もらいました。
ここ最近で一番です、本屋に並んでると思うので是非読んでみてください。