『手のひらの音符』 / 藤岡陽子
★ × 89
内容(「BOOK」データベースより) 不器用でもいい、間違いでもいい。ひたむきな全力が、私を強くした。45歳、服飾デザイナー、独身。バブルから現在を生きる女性の、仕事と恋。
奇しくもついこないだ中脇初枝さんの『きみはいい子』を読んで、歪んだ親子愛について触れたばかりでしたが、これも家族の歪さを描いた小説。
紀伊国屋書店員の選ぶ小説ベスト的なランキングで何度か名前を見かけていたものの、タイトルから何と無く敬遠していました…
が、ここ最近軽い物語を読んでいないかったこともあり、手に取りました(実際は軽くなかったですが…
前述の通り家族の物語。
主人公の水樹(女性)を中心に、幼馴染の悠也と憲吾、かつての担任、父と母…と、結構広い半径の中で小説は展開しています。
内容は、帯や裏表紙のあらすじに何と纏められているかは知りませんが、個人的にはタイトルや装丁があまり物語にマッチしていない印象を受けました。
作中に並ぶ設定は離婚、兄弟の死、いじめ、統合失調症など、良い意味でも悪い意味でも「キャッチーな」ものが次々と出てきて、世の中全体が不幸に包まれているような世界を作りだしています。
映画や小説でこういった作品を読むたび、分かりやすい不幸さに悲しいし苦しいし泣いてしまうのですが、そののちに何と無く金の匂いも感じてしまう自分がいて、心が腐ったなと思いつつ「真から良かったと思える文学って何なんだろう」と思ってしまいます。
ただそういった意味では本作は予想以上にすんなり入ってきたので何でだろうと考えてみたところ、一つ思ったのが、悲しい場面で「泣いていた」「涙を流した」と、わざわざ直球で説明せずとも文章力、求心力で自然と泣かされた場面が何度かあったというところ。
例えば登場人物が死やイジメなど思い浮かべやすい悲しみに遭遇しているとわかった時、心ではそれを想像して同様に悲しくなっていて、そこに輪をかけて「泣」や「涙」という文字が飛び込んできた時、その文字がスイッチとなってティアスポット押下!みたいなことがよくあります。
私、15秒のCMでも押下されてしまうことがありますから。
ただ長編小説は140文字や15秒といった短期決戦じゃなく、それまでのバックボーンありきでようやく「悲しい」と思わせる面倒くさいつくりになっているけれど(だから売れないのでしょうが…)、のめり込みまくった分自然に涙を流す、ということも出来る。
そうなった状態の時はかなり満足度が高いし、本作はそれに該当していた気がします(なんたる上から目線)。
全然作品のレビューになっていませんが、面白かったということです笑
これがもし映画になった場合チープになるかもしれないので、今のうちに是非原作をどうぞ。