『わたしをみつけて』 / 中脇初枝
★ ✖️ 87
内容(「BOOK」データベースより)
施設で育ち、今は准看護師として働く弥生は、問題がある医師にも異議は唱えない。なぜならやっと得た居場所を失いたくないから―。『きみはいい子』で光をあてた家族の問題に加え、今作では医療現場の問題にも鋭く切り込んでいく。新境地となる書き下ろし長編。
『きみはいい子』で知った中脇初枝さん、同時期に出た作品です。個人的には初の長編。
『きみはいい子』同様のテイストの、非常に静かで悲しい、けれどどこかに救いのあるようなストーリーでした。
人に迷惑をかけること、日常に変化をもたらすこと、人に期待することに諦念しているのも、全てこれまでの人生において「捨て子である」という事実に起因しています。
だから病院という渇いた環境下でも同様、彼女自身も渇いた感性で、例えばDVを受けている同僚がいても気にも止めず、医師が医療ミスで患者を死なせても何の感情も抱かない。
『きみはいい子』で我が子に暴力を振るっていた母親とも重なる女性です。
そんな彼女の前に、新しい看護師長が異動してくる。
患者と真摯に向き合い、悪いことを悪いと主張できる、まあ映画やドラマでよく出てくる、未熟な主人公に対する師にあたる役どころです。
そう、書きながら思ったのですが本作の設定は本当に「ありきたり」、過去の傷によって欠落した主人公が、良き上司を始め様々な人(作中では菊池という患者)と触れ合う中で成長していくという、少年ジャンプにおけるワンピースかってくらいド定番なのです。
だからもし映像化したらすごくチープでつまらないものになるのかもしれませんが、
『きみはいい子』のレビューでも書いた通り、とにかく中脇さんの文章が非常に魅力的で、読んでいる間、常に体のどこかしらの部位で「今オレは切なくなっている!」と物理的なスパーを受けているような、そんな気持ちが付きまといました(なんじゃそりゃ
何度かカタルシス、例えば医療ミスを繰り返す医師を看護師全体で成敗するシーン、もあるのですが基本は暗い。
けどその暗さが巧い。「暗くてもいいや」と思わされてしまう。笑
「めっちゃ良かったー!」と無責任に人に笑顔で薦められる作品ではありませんが、暗いのに面白いという、JAPAN文学っぽくて興味深い作品でした。
(最近明るい小説を読めてないな…次スポ根でも読もうか