- 作者: 西川美和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/02/25
- メディア: 単行本
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★ × 93
内容(「BOOK」データベースより)
長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。悲しさを“演じる”ことしかできなかった津村は、同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。人間の関係の幸福と不確かさを描いた感動の物語。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
2016年一発目は飛行機の中で貪り読んだ、西川美和さん著『永い言い訳』。
ゆっくり時間をかけて読むことに意味のある、本当に素晴らしい小説でした。
年明けスタートダッシュ成功です!
幸夫と陽一という、同一の事故によりそれぞれの妻を亡くし残された2人の夫の物語。
幸夫は作家であり、メディアにも露出する有名人、子はいない。
陽一はトラックのドライバーであり、真平と灯という2人のこどもがいる。
(仕事や生活、家庭の面から対照的な2人であり、この辺り是枝監督の『そして父になる』の福山雅治とリリーさんを思い出しました。)
2人は被害者の会で出会い、ひょんなことから生活の苦しい陽一の元へ週に2日、幸夫が真平と灯の子守り役として通うことで関係が深くなっていきます。
同じ境遇となった、性質の異なる2つの家族が絡むことで、身内を喪失した者の感情や心の置きどころを探っていくまでを描いています。
西川美和さんと言えば『ゆれる』『ディア・ドクター』で知られる名映画監督ですが、本作は先立って小説を出版し、のちに映画化されるというもの。
その順序に特に意味はないのかもしれませんが、個人的には小説を読むことで既に受け手の中に作られた世界観を、映像でどう表現されるのか楽しみになったので個人的にはアリと思いました。
幸夫が真平と灯の世話をするようになり、初めは情もなく疎ましい存在だった彼らと次第に距離を詰めていく場面のニュアンスなんかホント絶妙で、
映像だと音が挿入されるのか、カメラの定点位置はどこで、そもそも誰人称なのか、
それらの世界観がどう表現されるかの懸念が、原作者と監督が同一人物なので、不安でなく期待で一杯ってのがいい。
話が進むにつれ、物語は徐々に幸夫視点にシフトしていきます。
妻を失って初めの頃、失くす前後でほぼ揺れ動かない自らの心を不思議に思っていた幸夫が、陽一や真平、灯に触れながら感情の変化を伴っていく、いわば幸夫の再生物語ともなっているのですが、
個人的には小説の終盤で死を乗り越えた再生物語というよりは寧ろ、ようやく死を受け入れた地点までで終わっているというところに感銘を受けました。
失ったものの感情や心の置きどころは早々に定まる筈もないということが、一見正常状態だけど内のうちではドゥルドゥルとした感情の波が渦巻いていることを感じさせる心情描写から伝わってくる。
あからさまに感情に打ちのめされている陽一の方が寧ろ、悲しみの置きどころを何となく見つけているように見えました。
時間軸は長いものの、展開に起伏は然程ありません。
けれどとにかく文章が上手で、(著者が映画監督であるというバイアスも勿論あるでしょうが)場面場面の情景が浮かぶほど映画的で、じっくり読むことの良さを再認識できる作品でもありました。
映画がとても楽しみです!