『偽詩人の世にも奇妙な栄光』 / 四元康祐
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内容(「BOOK」データベースより)
吉本昭洋は中学二年の時、詩に出会った。教科書に載っていた中原中也の詩だった。以来彼は、詩を愛し、古今東西の詩集を読みあさり、生活の大半を詩に捧げるようになった。しかし、彼は詩を作らなかった。いや、作れなかったのだ。詩を愛しながら、詩作の才能の欠如を自覚した彼は、大学卒業後、商社に入社し、ビジネスマンとして世界各国を渡り歩く生活を送ることになる。しかしある日、彼は出張先のニカラグアで、ある衝撃的な事件に遭遇するのだった…。詩とは何か?という謎に迫る、刺激に満ちた問題作!
友人からのオススメ、初の作家、四元康祐さんです。以下、ウィキ参照
四元 康祐は、日本の詩人。 大阪府寝屋川市生まれ。中学・高校を広島学院の寮で過ごす。1982年上智大学文学部英文学科卒業。1983年結婚。1986年、製薬会社の駐在員としてアメリカに移住。1990年ペンシルベニア大学経営学修士号取得。1991年第1詩集『笑うバグ』を刊行。1994年ドイツ移住。
なんだか素晴らしい経歴。てか詩人だったんですね。
本作は小説ですが、タイトル通り詩を題材にしています。
ちょーーオモロかった!です。おススメ!
(あらすじは前述のBOOKデータベースを参照していただくとして割愛…)
私が本作で好きなのは、詩人である著者ならではの見たこともないような表現力の数々。
主人公である吉本昭洋の一生を時間方向に描写していますが視点はあくまで「彼は」という神の視点で、吉本自身から心情が吐露されているシーンはありません。
けれど吉本が学生時代に初めて中原中也の詩に出会った時の感銘であったり、時を経て出張先で詩の祭典に出くわした時の感動であったり、神の視点から語られるそれは決して平易な言い回しではないにも関わらず、ここまで情熱ある何かを持った主人公が羨ましくほど、心に訴えかけてくる描写になっています。
そしてそれが、単純に物語中の吉本というキャラクターに色や命を吹き込んでいるというよりは、著者である四元さん自身の主張を表しているという風に感じました。
詩人として著者自身も吉本と似たような感覚を味わっていたんだろうかとか、
中盤に出てくる、詩の作品が一般的にほとんど認知されていないという現状を通じて、少しでも世間に詩の大切さを訴えかけたいんだろうかとか、
吉本を通じて著者自身の思いが溢れているような点が、人間味あってすごく多幸感がありました。
こういう「小説から見える著者」という感覚は西加奈子さんの『サラバ!』やいとうせいこうさんの『想像ラジオ』でも味わいましたが、それらはいずれも私が著者自身の生い立ちや話しぶりや他作品を知った上味わった感覚なので、
本作のように読後初めて著者の顔や経歴を知るといったステータスでも味わえたというのは、それだけ物語に力強さが宿っていたということなのかなと思います。
残念、というか悲しいのは、作中で出てくる過去の詩人や世界の詩人の元ネタを私がほとんど知らなかったこと。
どんな分野でもそうですが、ゼロベースで作品が生まれるというのは有り得ないことで、本作でいうとベースが作中にでてくる他の詩人の詩とうことになりますが、それらの引用をもし知っていたなら、より楽しめたんだろうなぁ…と自分の無知さを呪います、、、
著者の他作品(特に谷川俊太郎さんについて語ったのは興味ビンビン…)も是非読んでみたい。万人にお勧めの小説です!