- 作者: 川上未映子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/07/09
- メディア: 単行本
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★ × 95
35歳ではじめての出産。それは試練の始まりだった! 芥川賞作家の川上未映子さんは、2011年にやはり芥川賞作家の阿部和重さんと結婚、翌年、男児を出産しました。つわり、マタニティー・ブルー、出生前検査を受けるべきかどうか、心とからだに訪れる激しい変化、そして分娩後の壮絶な苦しみ……。これから産む人、すでに産んだ人、そして生もうかどうか迷っている人とその家族に贈る、号泣と爆笑の出産・育児エッセイ!
図らずもさくらももこさん『そういうふうにできている - bookworm's digest』から立て続けの出産エッセイでしたが、泣いて笑うエッセイとはかくあるべき!という強烈なボディーブロー!すごい!
私は男で子どもはいませんが、妊娠中や妊娠を考えている人以外、私のような「周りの人間」こそ読むべき作品と個人的に感じました。
川上未映子さん、すんません完全に舐めてました‥
『そういうふうにできている』同様、一人の女性作家が妊娠し出産し育児するまでの数年間が綴られており、そこには一般的に流布する壮絶で大変なイメージそのものがあるものの、それを歯に衣着せぬ物言い感の強い著者が描いている時点で、構成要素としてはフツーの出産エッセイじゃねえだろうなとは予想できたのかもしれません。
けどそれは予想以上で、生命の誕生を無条件に喜ぶ、人間の本能としてそれは当然だみたいな暗黙のルールをブチ破ってくるような、ある種タブーとされている領域に踏み入ったように感じる程ガチンコで気持ちを綴っている、そこに非常に惹かれました。
その例として、野田聖子さんの闘病ドキュメントを観て、こんなことを書いています。
「基本的に年齢もこんなになってから生むなんて、この出産、野田聖子さんのエゴすぎる」っていう先入観とか意見とかが、とにかく多いみたいだった。でも、そんな批判はまったく成り立たないと思う。だって、すべての出産は親のエゴだから。
だから、「生んでもらった」「生んでくれた」「生んであげた」という応酬というか定形みたいなものを、もうそろそろやめたほうないいんじゃないのかな、とテレビを見ていて何度も思った。
私がこれまで読んだ著者の作品は少ないですが、その中でも乳がんやイジメといった軽くないテーマが扱われていて、しかも軽くない物言いで描いちゃうから、批判を浴びやすかったり変なイメージがついてしまう傾向にある著者だと思います。
実際本作の他の方のレビューにも、アンチレビューは多く観られました。
けど個人的には出産のような、正しいとか間違っているとかいう正解のないテーマにおいては、こうやって1人の女性作家がどストレートに手を挙げることはすごく面白くて、こんな意見があるんだなぁ〜と感心させられました。
勿論本作には前述のように辛辣で論理的な未映子節だけでなく、言葉では片付かない感動が描写されているシーンもいくつもあります。
例えば生まれた瞬間の155ページ。
君に会うことができて本当にうれしい。自分が生まれてきたことに意味なんてないし、要らないけれど、でもわたしは君に会うために生まれてきたんじゃないかと思うくらいに、君に会えて本当に嬉しい。全編を通じて基本的に著者の「我が儘さ」が際立って見えて笑、しかも頭が良いので理論武装して生まれた理屈が多く見られるのですが、
155ページを境に論理では片付かない現象に泣いたり笑ったりする場面が増えているように見えます。
だから155ページのような、一見陳腐な出産の風景に「著者の哲学が揺さぶられた感」を感じ、思わず泣いてしまいました。
勿論出産は素晴らしく生まれてくる子になんの罪もなく、けれどそれを経た女性の気持ちを汲み取らずに単に「良かったねめでたいね」とライトな感情で言ってしまわない男になりたい。
エッセイ、基本は著者自身のファンでない限り買わないのですが、これは持っておくべき一冊であると思っています。オススメ!