- 作者: 滝口悠生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/01/28
- メディア: 単行本
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★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。一人ひとりが死に思いをはせ、互いを思い、家族の記憶が広がっていく。生の断片が重なり合って永遠の時間が立ち上がる奇跡の一夜。第154回芥川賞受賞。
今年度芥川賞受賞作、個人的には『寝相 - bookworm's digest』以来2度目の滝口悠生さんです。
おもしろかったー。今月はヒット連発!なんでレビュー評価はあんなにも低いのだろうか?
1人の男性の死から見えてくる親族の物語。叙情的でフランス映画的な作品でした。
あらすじはBOOKデータベース記載の通り、一人の男の通夜に親族が集まったその日のことを綴っただけのものです。
ただし親族はまさかの30人あまり、そして『寝相 - bookworm's digest』同様、ナレーション的な神の視点と、30人の登場人物それぞれの視点がコロコロと混ざり合って、まあ実に読みにくい。
「お前誰だよ!」「今、誰視点の展開だよ!」て何度ツッコんだか笑
この辺りが低評価の所以なのでしょうか、確かに、如何にも芥川賞獲りそうだなぁーという心無い一言でバッサリ切られても仕方ないと感じるほど、まあ読みにくいです。
けれど私が言いたいのは一つ一つの読みにくさとか登場人物の過度な多さとかではなく、もうちょい広域の観点というか、読んでいくうちに小説全体に流れるなんとも言えない空気にハマっていく感じ、それです。
ハッキリ言って私もみなさん同様登場人物の名前の半分も記憶できず、「蒸発した夫婦とその息子」「不思議な関係性をもつ年の離れた兄弟」といったワンフレーズしか覚えていませんが、それでも別に問題ではない。
それより、30人もの親族のエピソードが次々にでてくること、それ自体が面白い。
感覚的には、「1人の男の通夜がある」という真っ白な大枠がまず用意されて、その余白を一つ一つ、一人一人の高い粒度のエピソードで埋めていき、小説が進むにつれてにわかに余白がザーッと減っていく、そんな感じ。
‥まあ、「それの何が面白いの?」と言われればそれまでですが、個人的にはそれだけで楽しめました。というか、映像なら未だしも文字媒体でこういう感覚はなかなか新鮮でした。
けどこういった小説は面白いと面白くないの境界が極めてファジーで危うい気がしますが、それが面白いに振れた一つの要素として、淡々とした空気の中で時折現れるキラーフレーズがあると思います。
死んでも、することや思うことは、生きている者と同じことばかりなのではないか。というのも、別に死なずとも、死んで空をどこまでものぼっていくような者は、きっと生きているうちからしょっちゅうのぼっていると思うからだ。(39頁)
自分よりも弱い者を前にしただけで、まるで自分が強い者であるかのように振る舞わなくてはならないことになり、一緒に弱くなれない。変わらず自分も弱く愚かで、もしかしたらお前たちとほとんど変わらないか、もしかしたらお前たちよりも簡単に逃げてしまうことができるのだから本当はもっと弱いのかもしれない。(126頁)
おじいちゃんが死んだんだから、こんな晴れやかな気持ちになるのはおかしいけれど、どうしてか、かなしみの隙間にこういう晴れやかさと楽しさがないというのも嘘だ。(135頁)読んでる途中に何度か襲う飽きの波の中に、上記のようにフッと二度見したくなる表現が出てくるものだから、個人的には気持ちが脱線することなく読み切れたというのもあります。
レビューを読んで、読んでみようかと思ってくれる人がいると嬉しいです。だってAmazonのレビュー低すぎるんだもの!
途中で評価付けせず最後まで読んでほしい作品でした。オススメ!