『去年の冬、きみと別れ』 / 中村文則
★ × 87
内容(「BOOK」データベースより)
ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は、二人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けていた。調べを進めるほど、事件の異様さにのみ込まれていく「僕」。そもそも、彼はなぜ事件を起こしたのか?それは本当に殺人だったのか?何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かを失くした人たちが群がる人形師。それぞれの狂気が暴走し、真相は迷宮入りするかに思われた。だが―。日本と世界を震撼させた著者が紡ぐ、戦慄のミステリー!
『迷宮 - bookworm's digest』以来久々の中村文則さん。
人間の心理をエグる作品というよりはミステリー色のかなり濃い方の中村節でした。ドロドロ流れる粘度の高〜い空気感は相変わらず中毒性高し!
主人公は二人の女性を殺した容疑で死刑判決を受けた男について調査するライター。
容疑者と何度か面会する中で浮かび上がってくる複数の周辺人物。
その中には姉や人形師の存在、それぞれに断片的に伏線が散りばめられており、
じわじわと事件の核心に近づいていく中盤までの読ませる力は素晴らしい!
特に容疑者の姉、壇蜜を連想されるコイツの存在が不気味で、初めは容疑者に一点集中だった異常性が、途中から姉へと連鎖していく辺りで物語の不気味さがにわかに広がって、
「おおーさすがだなぁ、何となく気持ち悪ぃ」とニヤニヤしたのも束の間、
中盤以降圧巻の、「登場人物全員異常!!」という、真っ白い牛乳にエスプレッソ一滴垂らして一瞬で加速するような勢いで迫ってくる展開。
(ネタバレになりますが)最終的にこの小説は、全ページのうち9割以上が「もう1つの小説」となり、残り数パーセントで著者が作品について語っている、という枠組みだったことがわかります。
アガサクリスティかよと思わせる、想像以上に凝った作りでビックリしました、中村先生新たな境地かと、、、
と、まあ斬新さが今回の目新しさではあったのですが、ちょっと結末までの持っていき方がかなり強引で、個人的には中村作品の中では少しランク下の方かなぁという感じでした。
勿論一般的なミステリーとして素晴らしいのでしょうが、、趣味は悪いかもしれませんが、例えば殺される女性の日記のシーンとかやっぱ唯一無二の描き方だし、そこをもっとえぐりとる中村先生が好きです。
充分面白いのですがいかんせんか太一が高いゆえの草生える我儘。