『教団X』 / 中村文則
★ × 93
内容(「BOOK」データベースより)
謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者最長にして圧倒的最高傑作。
『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』という、学者がMMA(総合格闘技)に挑戦するという面白そうな設定のノンフィクションを読んでいたのですが、古代の格闘技についてのあまり興味の湧かない章に飽きてしまい、
以前購入し暖めていた本書を少し読み始めたが最後、そのまま家でも電車でもズブズブはまっていき、読み終わってしまいました。
作家生活12年の著者の集大成と言われる、メディアで取り上げられ有名になるきっかけとなった本書ですが、西加奈子さんの『サラバ!下 - bookworm's digest』を読み終えたとき同様、好きな作家を読み続けてきた結果「ここに著者極まり!」と感じることのできる小説でした。
本書は、とある宗教団体に姿を消した一人の女性を探す樽崎という男からスタートし、そこから複数の宗教団体の存在、及びそこに属する大勢の人物にフィーチャーしながら進んでいく。
一人称となる登場人物は10人以上いて、かつ時間軸を後ろに飛ばしながら進行していく、それが600ページにも渡る超長編、、ということで今思えば難解な小説なのですが、全く飽きもせず一気に読めたことがまずすごいなあと思います。
また、小説という形態に則して、「人はなぜ生きるのか」をとことん突き詰めていくいつもの中村文則さんの姿は本書の後半でも見られましたが、個人的にはストーリーは結構ぶつぎりで(まあ600ページですし、、数年レベルの連載だし、、)、「展開のここの部分が中だるみする」みたいなレビューが出るのも仕方ないような気がしますが、
それよりも私は、ぶつぎりになった1つ1つ、例えば教祖の話や、TV局を乗っ取った篠原とコメンテーターが議論する場面など、それぞれのモジュール自体が非常に読み応えがあったなぁという印象を持ちました。
勿論全てを理解したわけではありませんが、基本的には悪や死とスレスレに隣り合わせの登場人物たちが、正誤のない独自の理論を(つまりは中村文則さんの哲学を)ひたすら述べている様は圧巻でした(個人的には福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ(2013/3/13投稿) - bookworm's digest』が引用されていたこともツボでした)。
いつもは限られたページ数で纏め上げた感のある著者の小説ですが、本書では制約をとっぱらってとにかく主張が詰め込まれているところが、集大成と言われる所以の1つと感じました。
勿論ストーリーも秀逸。
特に後半、前半で多くの登場人物が複数に絡まったままだった関係性が見事にほぐれていくのは、道尾秀介さんのミステリーを読んでいるかのような感覚(途中で何度か分からない描写があったのですが、読後に読み返すとちゃんと理解できましたし)。
宗教集団がTV局を占拠した状態で、自衛隊が中国に向かった辺りのデストピア感はカタルシスと同時に、限りなく現実に近いフィクションであることの恐怖を感じました。
中村さんは本書に限らず、一見ほとんどの人の日常には無関係な小説を書いているように見えて、読んでいると作中の異常性は決して現実からかけ離れてはいないような感覚をいつも味わうんですよね。
、、、、となると読まないほうが健全なのかもしれませんが、そここそ読書でしか知りえない感覚なんで、やっぱり読んでしまう。。。
いや、勿論本書の執拗なまでの性描写は不要にも感じましたが、、(全部合わせると100ページくらいあるんじゃないか?)
初めて中村文則さんを読むという意味では、本書はあまりお勧めしません。
(『何もかも憂鬱な夜に(2013/3/22投稿) - bookworm's digest』や『悪と仮面のルール - bookworm's digest』が良い)
試行錯誤の末にこの作品に到達した、という観点で味わうのが最も深く入り込めるんじゃないかと思います。
遅ればせながら読めてよかった。これからも追い続けます。