『夕方までに帰るよ』 / 宮崎夏次系
★ × 88
(内容紹介)
ひきこもってしまった姉、カルト教団らしき怪しげなクラブ活動に熱を上げる父母、そんな家族と真正面から向き合えない「僕」……。壊れかけた一家を通して描かれる、誰かと繋がっていたいのに誰とも「本当」にはつながれないすべての人に贈る、99%の絶望と1%の希望の物語。
『僕は問題ありません - bookworm's digest』以来の宮崎夏次系さん。
こないだ本棚を整理していたとき、『僕は問題〜』が目に入ったので読み返してみると、以前読んだ時よりもずっとずっと良かった。
うっかりちょっと泣きそうになったし、そもそも「あれ?絵、上手くない?」とまで感じた。
そんなスルメをもっかいしゃぶりたくて、デビュー作である本作を手に取りました。
本作は長編(個人的には初)であり、ストーリー自体は内容紹介に書いたとおりなので詳細は省くとして、読み終えて私がまず感じたのは
「すげえ!すげえよ漫画なのに!」
いやホント、面白いとかつまらんとかっていう具体的な形容詞じゃなくて、ただすごい、と思いました。
内容紹介でもあるように、本作の主人公には離れて暮らす引きこもりの姉が居ます。
姉の住むアパートは1人の男性が管理しており、姉含むアパートの住人は全員管理人によって「一元化」された引きこもり。
簡単に言えば集団的な人体実験みたいなものですが、住人たちは意志を持たず、みな同じ身なりで管理されている。姉もその1人。
主人公はそんな姉を救いたいという気持ちから、アパートに度々通うものの、当の本人は部屋の中で防御壁(映画『アイアムサム』のショーンペンを思い出しました)を作って出てこようとしません。
一方で主人公自身も、親が新興宗教にハマっていたり、クラスメイトと一緒にテストを受けることができないといった問題を抱えていて、正常でない精神で何とか保っているような状態。
とにかく出てくる人物も設定も救いのない、且つ長編ゆえに終わりも中々来ない、『僕は問題〜』よりもずっと重いテーマで進みます。
私がすごい!と思ったのは、とにかくこの重い世界の描き方。
ホント、読んでいて堕ちていく感覚しかありません。笑
太宰治『人間失格 - bookworm's digest』や中村文則さん『何もかも憂鬱な夜に(2013/3/22投稿) - bookworm's digest』は圧倒的な文字量で迫ってきましたが本作は漫画。
クセのある絵、断片的なセリフだけでここまでの堕ちっぷりを漫画で実現しているという事実が、面白いとかつまらんとかでなくただ「すごい」と思った一番の理由です。
とは言いつつもストーリー自体も結構良くできているのも事実。
アパートの別の住人が姉に成りすまして親に会うシーンはなかなかの恐怖ですし、終盤に姉はアパートから出るまでに至りますが、結局は頭からダンボールを被ったままであるという、光が射した途端に遮断するような描写はホント上手いと思います。
どうやら初期作品が特に評価が高いそうなので、もう1, 2冊買ってみます。