『ガソリン生活』 / 伊坂幸太郎
★ × 87
内容(「BOOK」データベースより)
実のところ、日々、車同士は排出ガスの届く距離で会話している。本作語り手デミオの持ち主・望月家は、母兄姉弟の四人家族(ただし一番大人なのは弟)。兄・良夫がある女性を愛車デミオに乗せた日から物語は始まる。強面の芸能記者。不倫の噂。脅迫と、いじめの影―?大小の謎に、仲良し望月ファミリーは巻き込まれて、さあ大変。凸凹コンビの望月兄弟が巻き込まれたのは元女優とパパラッチの追走事故でした―。謎がひしめく会心の長編ミステリーにして幸福感の結晶たる、チャーミングな家族小説。
「ダヴィンチ」で中村文則さんと伊坂幸太郎さんの対談を読んで、光(伊坂さん)と影(中村さん笑)で真逆の作風の2人が、それでも伝えたい想いやチャレンジしたい欲なんかが共通であることがなんか嬉しくて、最近「影」ばっかだったのでたまには光を、それもどポップなやつを、と思って本作を手に取りました。
主人公は車。カーズでした。
主人公デミオは母親と3人のこどもで構成される一家の自家用車。
作中では自動車、電車などは相互に会話できるSF設定で、基本的にデミオ目線で話は進む(エピローグを除く)ので、伊坂さんのこれまでのミステリーと大きく違うのが「あくまで読者には車内及びその周辺の情報しか与えられない」ということ。
例えばファミレスで家族がある話し合いをするシーンがありますが、デミオはあくまで駐車場にいるので、ファミレス内で交わされた会話については一切分かりません(聞こえないから)。
デミオは店を出て車に戻ってきてからの家族の会話から、事の顛末を推測するしかないのです。
この辺の設定、「犯人の情報がない」通常のミステリーと違い、「解決していく側(この場合この一家)の情報がない」という珍しい構図で、すごいなと思いました。
カーズ、とは言えストーリー自体は別に軽くなく、人も死んだり死体を運んだりするシーンもありますが、幾重に張られた結構最悪の伏線が、最後誰も悪くならないよう(多少悪い人もいますが)回収していって気持ちよく終わる、これはもうホント伊坂さんの名人芸だよなぁ。
(またまた触れますが)ダヴィンチで中村さんが言ってたように、「僕だったら絶対にああいう風にできない」というスタイル、それが超売れっ子伊坂さんで、本作でもそれが出てました。
「開いたボンネットが塞がらない」「イライラして思わずワイパーが動きそう」など独特の言い回し、要所要所で刺さるキラーフレーズも混ぜてきて、結構な長編なのに、途中で切ったとしてもすぐ物語に再開できる吸引力(?)も素晴らしい。
うーん文句のつけようがない、たまの頻度で伊坂さん読むのは、同じ時代に生きている(生きさせていただいている)日本人として必要なことのような気がします。