『陸王』 / 池井戸潤
★ × 86
(内容紹介)
勝利を、信じろ――。
足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。
埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は、百年の歴史を有する老舗足袋業者だ。といっても、その実態は従業員二十名の零細企業で、業績はジリ貧。社長の宮沢は、銀行から融資を引き出すのにも苦労する日々を送っていた。そんなある日、宮沢はふとしたことから新たな事業計画を思いつく。長年培ってきた足袋業者のノウハウを生かしたランニングシューズを開発してはどうか。
社内にプロジェクトチームを立ち上げ、開発に着手する宮沢。しかし、その前には様々な障壁が立ちはだかる。資金難、素材探し、困難を極めるソール(靴底)開発、大手シューズメーカーの妨害――。
チームワーク、ものづくりへの情熱、そして仲間との熱い結びつきで難局に立ち向かっていく零細企業・こはぜ屋。はたして、彼らに未来はあるのか?
ちょーー久しぶり池井戸潤さん。どれくらい久しぶりかというと、前に何を読んだか覚えてないくらい。
(ブクログを漁ったところ、2012年に読んだ『『鉄の骨』のレビュー 池井戸潤 (tacbonaldさん) - ブクログ』が最新でした)
「勧善懲悪」をキーワードに、弱者が強大な力に打ち勝つ爽快感が好評を博して今や超売れっ子作家の最新作。
毎回テーマは違えど、今回も期待にそぐわぬ水戸黄門感が前面に出てて、池井戸ワークスここに極まりという感じでした。
今回のテーマは「ランニングシューズ」。
足袋の老舗メーカーこはぜ屋が、時代の流れによって斜陽産業となった足袋の生産技術を、「人間本来の走り」をコンセプトとしたランニングシューズに生まれ変わらせるべく孤軍奮闘する中小企業もの。
調べると、物語にはどうやらモチーフがあったようです。
主人公であるこはぜ屋の社長は、ランニングシューズに関する知識こそないものの、ものづくりにかける情熱を持った魅力的な男性であり、その魅力ゆえ、飯山という新素材生産のスペシャリスト、村野という超一流のシューフィッターを味方につけ、じわじわと事業改革への地盤を固めていく。
その過程では半沢直樹や下町ロケット同様、銀行からの融資問題、大企業からの圧力問題、従業員との軋轢問題といった、あらかた予想される池井戸流「壁ぶちあたりの構図」が過度な程描かれています。
作風が一辺倒だなぁという批評が生まれること覚悟でここまで「ど定番」を貫かれると逆に爽快!
しかもなんだかんだで、それら壁をぶち破っていく様は分かっていても感動させられました。
こはぜ屋の行く手を阻む大企業アトランティス、困難を吹っ掛けてくるものの最終的には成敗!
という大企業への強烈なアンチテーゼも相変わらず健在。
利益がそんなに大事かよ!結局は対人だろ!というメッセージ、「ははぁごもっとも、、」とひれ伏すしかありません、、、池井戸さんが売れる理由はこういった企業戦士への啓発を、エンタメ性抜群の小説に乗せて伝えてくれるからだろうなぁとヒシヒシと感じました。
(「企業とは利益でなく対人である」というタイトルのビジネス本よりよっぽど手に取りやすいですしね)
特に好きなキャラは技術一筋、クセのある飯山さんです。
今ちょうど直属の先輩がこういった、「気になることはすべて調べ尽くしたい」系男子なので、身近に感じられたという理由もあります(先輩は飯山さんほど捻くれていませんが)。
本作もきっと2年後くらいにドラマ化されるでしょうが、その時は半沢でいう赤井英和のようなゴリゴリのアウトサイダーが演じてほしいなぁ、、あっ、古田新太とか?