『浮遊霊ブラジル』 / 津村記久子
★ × 93
内容(「BOOK」データベースより)
ただ生きてきた時間の中に溶けていくのは、なんて心地よいことなんだろう。卓抜なユーモアと鋭い人間観察、リズミカルな文章と意表を突く展開。会心の短篇集!
久々津村さん。先日心斎橋の本屋で行われたサイン会に行けなかったのが悔やまれますが、ずっと読みたかった川端康成文学賞受賞作の『給水塔と亀』が収録された短編集。
いやーー改めて素晴らしい作家、、、スッと心が洗われるような小説でした。
前半3編は、些細な日常を描いた物語。
主人公は悲しみやイライラを抱えた人たちですが、その感情の起伏を「嬉しい」「楽しい」とダイレクトには表現せず、物語の中で「あ、今ちょっと嬉しそうだな、楽しそうだな」とぼんやり感じさせてくれるような文章になっています。
例えば表題作は、定年後に故郷に帰った独り身のおじさんの話。
生涯独りで生きてきたことに少しの憂いを感じているものの、故郷で起こるちょっとした出会いを通じ、気持ちが上がっていくのが「ぼんやり」分かる。
心なしか、前の部屋にいた時よりも、その時刻が少し早いような気がする。
わずか20ページの中でも、幸せとは何かという主張をしっかり感じるし余韻もあって、うおーやっぱすげえと唸りました。
んで、前半一番好きな『アイトール・ベラスコの新しい妻』、こちらは学生時代にクラスを牛耳っていた者、いじめられていた者、いじめられていた者に付き纏われていた者の3者が、大人になった姿を描いています。
著者の大好きな小説『エヴリシング・フロウズ - bookworm's digest』でも思いましたが、津村さんの「大人な子ども」の描き方、ホントうますぎてひれ伏すばかり、、
①いじめっ子、②いじめられっ子、③周囲の子、というどこにでもある風景で、津村さんが抜群に上手いのが大半の人が該当するであろう③(私も然り)。
本心と違う態度を①や②にとってしまう描写なんか見てて自分のことのようで、ああごめんなさい、、と津村さんの住んでるであろう大阪南方面に頭下げたくなるほど。
観察力凄すぎて毎度恐れ入ります。
ほんでそこから4編はまさかのSF!笑
地獄の話だったり精子の擬人だったり死後の世界だったり、、津村ワークスを全て読んできた(はずの)私ですが、新たなジャンルでびっくりしました。
これはこれで馬鹿馬鹿しくて笑えましたし(特に『地獄』は津村ワールド炸裂、、)、短編集にこういった変化球が入っているのはすごくいいなと思いました。
ただやっぱ日常の機微を描く津村さんを今後も読みたい読みたい!!久々に燃えたオススメ小説です。