文化工作という壮大な設定にも関わらず、論じられているのは主人公の繊細な恋愛、肝の小さい登場人物という不釣合いさが何とも奇妙な小説。洋書とはいえ非常に読みやすく、またキッチリとどんでん返しも感動も盛り込んだあたり日本人向けで、訳書に対する先入観を破ってくれる万人にお勧めの作品です。
第9位
『死んでいない者』 / 滝口悠生
今年度芥川賞受賞作、2016年に初めて読んでハマッた作家の一人。身内の死というセンセーショナルなイベントの中でも、悲しみだけでない幾分かの爽快さやスッキリさ、或いは死とは全く無関係なところでの群像劇を描いた作品。どんなドラスティックな場面でも淡々とした日常は流れるという真実を30名以上(!)の主人公で表現した辺りがツボでした。今後も読みたい作家です。
第8位
『STONER』 / ジョン・ウィリアムズ
翻訳大賞の第1回読者賞。ストーナーという1人の男性の生涯を淡々と描いただけの小説で、起伏もなく喜びも少ない物語なのに、ストーナーの妻や娘を思う気持ち、これらは作品を飛び越えて自分自身に訴えかけてくるようで、読み進めるにつれどんどん気持ちが入っていきました。翻訳大賞関連はいくつか読みましたが、現時点でブッチギリに感動した作品。映画好きな方に特にお勧めの小説です。
第7位
『献灯使』 / 多和田葉子
2016年最ぶっとび小説。約100年後の日本を描いた小説で、鎖国化した日本のどうしようもない絶望感を描いたもの。最終話『動物たちのバベル』だけをピックアップすると単なるギャグSFですが、それまでに描かれるデストピアの流れを汲むと、リスやネコが国家について語っているというぶっとびを決して嘲笑できない、それくらい鬼気迫る文章で、読後にもっともボーゼンとさせられました。2017年は著者の他の作品にもチャレンジします。
第6位
『コンビニ人間』 / 村田沙耶香
本年度芥川賞受賞作。個人的には過去の芥川賞の中でも1、2を争う面白さでした。コンビニという極めてローカルの世界から抜け出さない30代独身女性を描いた小説。蔓延する固定観念、「フツーってなんだっけ?」なんていう問答を読んだ人同士で議論できるような余白を持った、芥川賞の通念を覆すほど普遍的で長く読まれる作品と思います。村田沙耶香さん、なかなか癖のある作品が多そうですが来年も読もう。
第5位
今年映像化もされた、監督自ら筆を取った原作。主人公のいやーーーーーーーな感じ、これは読み進める度に自分のことを言われているように感じる眉ひそめ感、、登場人物は一見淡々と生きているように描写されていますが、内部ではドロッドロの波が渦巻いているということが要所要所で感じ取れる、けどそれが何とも心地よくて、文字でしか表現しえない芸術であることをまざまざと見せ付けられました。小説→映画化の流れはあまり好きではありませんが本作は別格、2017年は遅ればせながら映画も観なければなりません。
第4位
『i(アイ)』 / 西加奈子
年の瀬に出た西さん最新作。『サラバ!』の延長ともいうべき自意識のオンパレード、主人公の優しさに何度も涙しながらも、最後には必ず光射すというカタルシスもある、小説としてこれ以上ない完成度!途中で何度も繰り返される「第三者とは何か」、小説を読んだ人と膝を突き合わせて議論したくなるテーマであり、西さんがデビューから一貫して模索してきたテーマでもあり、長い間追っかけてきた身としては正に集大成と感じる小説です。
第3位
『悪と仮面のルール』 / 中村文則
毎年必ずランクインする著者、本作ははじめて読んだ『何もかも憂鬱な夜に』に匹敵するほど感銘をうけた作品。「生とは、死とは、悪とは」といった究極の問いに真正面から答え続ける姿勢が前面に出ていて、ここ数年のエンタメ路線とはまた異なるテイストです。見所は、人を殺すことについてテロ集団の1人とひたすら議論した中盤のシーン、これは中学校の国語の教科書に載せるべきなんじゃないかと個人的には思ったり、切り取って壁に貼っておくべきだと個人的には思ったり。中村文則さん入門書としてもおススメ!これからも追いかけます。
第2位
『七帝柔道記』 / 増田俊也
昨年1位にした『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』に続く増田さん作品。学生時代の柔道部生活を2年程度描いた自伝にも関わらず、七帝柔道という現代に脈々と受け継がれるリアルPFP決定戦をベースに、部員たちが命懸けで勝ちを目指す姿にもう涙ボロボロでした。最後の試合にまさかの怪我で欠場という呆気なさで物語が終わる苦しさも、小説でないノンフィクションだからこそ出るフィクションさ!男性物書きで今最も筆力を持った方だと改めて感じました。全男子汗かいて読んでほしい!
第1位
『きみは赤ちゃん』 / 川上美映子
川上未映子さんの育児エッセイ。クセの強い性格、文章の著者に初めての子どもができ、出産、育児を通じて感じたことを綴っています。世に言う「子どもは絶対可愛いということ」、その事実に対して表現者として真っ向から疑問を抱いて意見する姿はすごくカッコ良くて、それが第三者としてでなくママとなっても実行したところに魅力を感じました。また、理詰めの文章の中にも「ただただキミが可愛い」という理論で片付かない感情丸出しのシーンもあって、改めて子どもを育てるという不思議さや素敵さを感じさせてくれます。多くの育児エッセイを読みましたが、喜怒哀楽すべて詰め込まれた本作はその中でも最もキラキラしてて、2016年1位に選びました。
2016年サヨナラ!!