『かなわない』 / 植本一子
★ × 91
内容(「BOOK」データベースより)
育児日記『働けECD』から5年―写真家・植本一子が書かずにはいられなかった家族、母、生きづらさ、愛。すべての期待を裏切る一大叙情詩。
著者のことは知りませんでしたが、さんピンCAMPと反原発運動で有名なラッパー・ECDさんの奥さんだそう(作中ではECD = 石田さんと表記されていて、しばらく誰かわかりませんでした)。
本作は著者目線で、石田夫妻が東日本大地震後から数年間2人の娘を育てた日常を綴ったエッセイ。
去年も育児エッセイは多く読みましたが、ここまで暗い、やるせない気持ちになったのは初めてでした、、不思議な魅力に取り憑かれGW明け1週間会社帰りの電車で一気に読了。
エッセイなので基本的には著者が朝起きて保育園預けて仕事行ってECDと喧嘩して、という誰にでもある些細な日常を綴ったもので、
文章も完全に校正されておらず丁寧語も混ざったりしていて、まさに日記そのものになっています。
なのに不思議な魅力、、その理由の1つに、「あまりに自分を曝け出している」
ことが挙げられると思います。
例えば著者は2人の娘の育児に、言うなれば完全にノイローゼになっており、自分のイライラが抑えられず声を荒げ、躁鬱を繰り返すシーンが見られます。
日記、なので当然そういった感情を書き殴って当然なのですが、作品として万人に見られる以上、日記とはいえ「見られている自分」意識が無意識にありそうなものですが、本作にはそれがない。
だからアマゾンレビューでも、感情丸出しで子どものように娘に当たり、育児から逃げ夜な夜なライブ鑑賞に繰り出し、挙句の果てにほかの男性と恋に落ちた著者を叩きに叩いたものばかり。
正論を振りかざせばそれは至極真っ当な批判なのですが、こういった感情誰しもがあるし、そこを隠さず物書きとして世に出したところに魅力を感じました。
(同じく育児本の『きみは赤ちゃん - bookworm's digest』『はるまき日記 - bookworm's digest』を読んだときも思いましたが、著者のような表現者がこういった感情を丸出しにしないと誰が書くんだ!と、名もなきアマゾンレビュワーに憤りたくなる。)
あと魅力は作中のECDの佇まい。
あまり詳しくなかったのでライブ動画とかネットで観たものの、激しいパフォーマンスの裏で、こんなにも普遍的なお父さん像を描いているとは思いませんでした笑。
著者が離婚を切り出したときのECDの返し、娘を思っての意見はすごく痺れましたし、金ないのにレコード買っちゃう可愛さも素敵。
著者関係なく、ECDファンの方も垂涎ものじゃないかと思います。
最後の方で出てくる著者にとっての「先生」(カウンセリングの先生)曰く、著者が娘たちを疎ましいと思うのは、こんなにも自分から可愛がられている、自分に世話をしてもらえる娘たちが羨ましいから。
それは自分が母親に愛されてなかったことが根底にあるそうで、そんな自分もまた母親のようになっていて、娘たちもまた自分のようになってしまうのだという負の連鎖。
目を背けてはいけない子育ての恐ろしい部分を見せつけられたようで、肝に命じておこうと思います。