『斜陽』 / 太宰治
★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
敗戦直後の没落貴族の家庭にあって、恋と革命に生きようとする娘かず子、「最後の貴婦人」の気品をたもつ母、破滅にむかって突き進む弟直治。滅びゆくものの哀しくも美しい姿を描いた『斜陽』は、昭和22年発表されるや爆発的人気を呼び、「斜陽族」という言葉さえ生み出した。
又吉さんの『劇場 - bookworm's digest 』を読み、彼が崇拝する太宰治を読みたくなる、といういつものスパイラルで本作を手に取りました。
多分『人間失格 - bookworm's digest』以来の太宰治でしたが、いやぁなんとまあ素晴らしい!!時代を越えて感動させられました。
舞台は戦後、主人公かず子は病気の母親、麻薬中毒の弟を持つ女性。
物語は序盤から、かず子の日常が描かれていて、母親との関係性や上原という片思いの男性の描写などが、ヌルッとしたペースで描かれています。
背表紙に書かれたあらすじの「滅びの姿」というほど大げさな悲愴感は、中盤に母親の死を迎えても尚あまり感じられません。
物語が急転し、おおおおお太宰治〜〜!!と脈打ってくるのは最後の20ページ!!
かず子が上原に会いに東京へ行った後、弟の直治が自殺するシーン。
直治はかず子宛に遺書を残します。
僕は、もっと早く死ぬべきだった。しかしたった1つ、ママの愛情。それを思うと死ねなかった。人間は自由に生きる権利を持っていると同様に、いつでも勝手に死ねる権利を持っているのだけれども、しかし「母」の生きている間は、その死の権利は留保されなければならないと僕は考えているんです。それは同時に、「母」をも殺してしまう事になるのですから。
中村文則さん『何もかも憂鬱な夜に(2013/3/22投稿) - bookworm's digest』で友人が主人公に宛てた手紙のように、人がなぜ生きるのか、死んではダメなのかを徹底的に考え抜いて文字に起こされていて、著者の生きづらさがグワーーッと伝わってくる感覚を味わいました。
そして本作が小説として最もスウィングしているのはその後、間髪入れず差し込まれたかず子から上原への手紙!
かず子は既婚者である上原の子をお腹に授かり、ファンキーモンキーな上原に対してこう書いています。
私の生まれた子を、たったいちどでよろしゅうございますから、あなたの奥様に抱かせていただきたいのです。そうして、その時、私にこう言わせていただきます。
「これは、直治が、ある女のひとに内緒に生ませた子ですの」
、、、どうでしょうこのスウィングっぷり!!しかものちの数行で本作は幕を閉じます。
弟の死についてのかず子の心のうちは描写されず、けれど上原との間に出来た子を、「直治が生ませた子なのです」と、上原の奥さんに言う。
これほどまでホラーな、ファンキーモンキーな展開ありますでしょうか、、。
私は謂わゆる文豪の小説をほとんど読んだことがないゆとりブックワームですし、太宰治についてもほとんど知識がありません。
だから本作は詳しい人からすれば違った見方になるのでしょうが、それでも失礼を承知で私の感想を述べますと、
本作は昭和版の昼顔です。ものすごくエンタメでした。
現代日本のマルッとした小説に飽きがちな方は是非!