『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』 / せきしろ
★ × 88
内容(「BOOK」データベースより)
深夜ラジオだけが世界との接点だった。それで十分だった。伝説のハガキ職人せきしろが自身の「あの頃」を描いた自伝的小説。
勝手に「せきしろ月間」として、小説2冊とエッセイ1冊を買いました。
本作はそのうちの1つ、せきしろ作品で最新の小説です。
北海道から「受験してくる」と親に嘘ついて上京したきり、全く実家に帰らずひたすらハガキ職人として生きていた著者の自伝的小説。
『ダイオウイカは知らないでしょう - bookworm's digest』を読んで、せきしろさんの独特すぎる感性にしてやられましたが、その感性は思っていた通り、クラスで目立つまではいかないけれど脳内では常に爆笑を取り続けているような、まさに又吉さんの描く自意識ものと同じように磨かれたものであることが分かります。
特に上京するまでと上京してからの流れ、
友人にお笑いやろうぜと誘われて、上京してからは一生懸命表に立とうと(喋りのうまい友人の利用しながら)奮闘していたら、友人から「辞める」と言われたシーン
なんて、痛々しすぎて涙出そう。
そういった燻りエピソードを経て、最終的に著者はとあるラジオ番組にネタを投稿し、採用された時の喜びからハガキ職人としての生活を歩み出す。
現在のせきしろさんの感性を築いたのは、この時期なのでしょう。
んで面白いのが、東京でも同じハガキ職人として活動する友人ができ、
友人はラジオへの投稿を足掛かりに放送作家になる夢を持っているのですが、主人公はそんな友人に冷めているところ。
学生時代にお笑いやろうと意気込んで出てきた
主人公の(というかせきしろさんの笑)向上心はどこへやら、
東京での数年を経て、夢も何も持たなくなった主人公の(せきしろさんの)姿が後半描かれています笑。
小説というか自叙伝なので、最後の最後まで特に起伏なく終わって少し物足りませんが、秀でたネガティブ・自意識表現を持つ著者の小説としてはオンリーワンでした!
あと、収録された超短編『でも』が素晴らしく良かった。
残高59円となり、実家の母親にお金を振り込んで欲しいと頼むだけの話ですが、『ダイオウイカは知らないでしょう - bookworm's digest』で感じたような、短い文章でググっと引き寄せられる感覚、随所に感じられて、個人的にせきしろさんは小説よりエッセイの方が好きかなと感じました。
今月はあと2冊、せきしろさんを学びたいと思います。