本を読む行為ができる喜び、本を楽しめなかった時に「受け皿の小さい自分のせいだ」と言うほどまでの作家へのリスペクト、
本を愛する又吉さんが、読書量の落ちていた俺を叱咤激励してくれたような力強い言葉が詰まった新書でした。
本に救われたというと大げさですが、誰もが本を読んで多かれ少なかれ無意識のうちに人生観変わっている経験ってあると思うので、そこを逃さず伝えてくれる又吉さんのような感性、かっこいいです。
第9位
『スウィングしなけりゃ意味がない』 / 佐藤亜紀
戦時中に敵性音楽として禁じられたジャズに魅せられたドイツの青年たちの物語。
タイトル程のカタルシスは無く、救われない世界で辛らつな描写が続きますが、どんなに不幸が襲っても「やっぱり俺たちジャズしかないよね」と帰着する終盤、ダラダラとルーティンを消化している自分の毎日を改めさせられるような強さを感じられる小説でした。
第8位
『小さないじわるを消すだけで』 / 吉本ばなな
「小さないじわる」は誰もが無意識のうちにやっていることで、それを一つずつ消していきましょうという提唱。
新幹線で叩き起こされる些細なエピソードの入った第1章は、読んだ人と是非議論したい、いろんな想像が膨らむ素晴らしいエッセイです。
ダライ・ラマの、思っていたよりずっと人間らしくおじいちゃんらしい姿も意外でした。それまではカリン様くらい神に近い存在と思っていました。
第7位
『あの素晴らしき七年』 / エトガル・ケレット
今年最初に読んだ本ながら、読み終えたときの不思議な多幸感を未だに覚えている、けれど良さを説明しにくい海外エッセイ。
基本的には戦争もので、要所要所で命がけの災難が著者含む家族に降りかかってきますが、「不思議な多幸感」は著者の立ち振る舞いに起因していて、
映画『ライフ・イズ・ビューティフル』のような、過酷な状況でもユーモアはユーモア、笑って暮らせよというスタンス、
これが余計悲しみを孕ませるような効果となって、結果不思議な読後感となっています。
読みやすさからして海外文学入門としてもすごく良いと思います。
第6位
『ホームシック:生活(2~3人分)』 / ECD
ラッパーであり植本一子さんの旦那であり、癌と闘病中であるECDさんの数年前のエッセイ。
一人目の娘が生まれた時期に綴ったものであり、植本さんの感情の起伏や生活の変化に苦労しながらも、驚くほど自分を俯瞰した佇まいの著者の文章に完全にやられました。
あとエッセイというジャンルは、基本的に著者のことをある程度知っていて、読む前から感情にバイアスかかった状態でないと楽しめないものと思っていたのですが、著者のことをほとんど知らない状態でも文体だけで刺さるということを初めて教えてくれたのも本書でした。
第5位
『ビニール傘』 / 岸 政彦
社会学者・岸政彦さんの初小説。
小説にも関わらず登場人物に一切共感できない、神の視点で俯瞰し続けているような感覚ゆえに逆説的に感情移入できるという、社会学ならではの世の中の切り方がビシビシ出ています。
ご本人の経験から成っているためか情景描写もイチイチ鮮明で、工場地帯特有のすえた匂いの伝え方がやば過ぎ、、大阪の南に詳しい人はかなりアガると思います。
第4位
短歌を題材にした本を初めて読んだと同時に、せきしろさんの才能を初めて知った本。
とにかく秀でた言葉の選び方。与えられたお題に対し30文字くらいで伝える能力の高さ。
数多くの魅力的なゲストが毎度出てくるにもかかわらず、結局せきしろさんの句が全部持っていくという作りになってしまっています。
作家の方は自分の身の回りで起こる些細な出来事を、面白おかしくドラマチックに文字で伝えるという能力が基本的にものすごい高いのだと思いますが、せきしろさんのような伝え方がまだあったのか!という驚きを毎度感じました。
最後、西さんが読んだ句に対し妄想を膨らませまくったクロスエッセイが特にオススメなので是非!
第3位
『家族最後の日』 / 植本一子
今年一番の作家・植本一子さんの3作目のエッセイ。
2作目『かなわない』のメンタルを喰らう育児日記からは少し脱却したものの、明日からも日々付き合っていく友人のことや、決して裕福でない家計のことを全て曝け出し、淡々と日常を綴るさまは、これまで読んできたエッセイというジャンルの概念が変えられるようなパワーがあります。
特に闘病中の旦那・ECDに対する描写は身も心もエグられるし、恋愛感という意味では群を抜いてアウトローで賛否両論なのは間違いないですが、こんなにも有名になった著者がこうやって何もかもを書き殴って世の中に出すという、その事実だけでもう震えます(今もこうやって書きながら、改めてこういう本が世の中に出ることの大切さを感じます)。
第2位
『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』 / DARTHREIDER
私を襲った今年の1番の出来事はジャパニーズヒップホップにハマったこと。これまで素人ながら断片的には知っていたつもりでしたが、ヒップホップを語る上で欠かせない「バトル」、この歴史を紐解いた本書を読んでから転げるようにのめり込んでしまいました。
格闘技と同じく、地下の文化だと敬遠されがち(かつ最近気づいたのですが、ラップ好きと言うと「なんで今更」と何故か笑われる、、)なヒップホップですが、本書に書かれているように、ラッパーや韻の多様性・過去の引用など、形を変えながら数小節に情報量を詰め込む様はパズルのように数学的な魅力を感じます。
多分本好きの人とヒップホップはリンクしてるんだろうなぁと勝手ながら思うので、国語オタクの方はよりたまらないと思います。
第1位
『降伏の記録』 / 植本一子
過去読んだ本の中でも1, 2を争う程の衝撃と、これ以降しばらく文章は書きませんという著者の悲しい宣言も相俟って、文句なしぶっちぎりの2017年1位に選びました。
闘病中の旦那への「死んでほしい」という思いすら曝け出したここまでの文章、
私の中でエッセイの概念が完全に変わってしまったので、エッセイを読む上での心構えは今後、
「植本一子か、否か」(自分を飾ってるか否か)
で分かれてしまうし、「否」の場合は満足できないだろうなぁと思います。そんな弊害を生んじゃった程のパワー。
2017年の流行語が忖度や35億とか言われてますが、私の中では「白いページ」これに尽きる。
今年も良き出会いを!!