のうのうと暮らしていたら、今日で2月も終わるという衝撃で立ちくらみした。こうやって気づいたら50歳くらいになって老害と呼ばれるようになるんやろな。
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を読み終わった。これまた素晴らしい読書体験、文字でしか表現できない芸術の妙でした。
- 作者: ジョナサン・サフラン・フォア,近藤 隆文
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2011/07/26
- メディア: ハードカバー
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9・11で父親を失った少年オスカーが主人公。PTSDで、突如襲った悲しみに向き合えず人とコミュニケーションが取るのが困難という設定。彼人称で語られる物語は、故にとっ散らかってて非常に読みにくい。まさに『キャッチャーインザライ』読んだときの感覚と一緒。且つ、彼以外に計2人の目線から並行して語られるエピソードも挟まっていて、其々が何を意味するか中盤くらいまで読み取れないので、はじめはなかなかにしんどかった。
ただ中盤以降、父親の生きた軌跡を追うオスカーの時空間に残り2人が入って絡み合っていくあたりから急速に熱を帯びてきて、オスカーのみぞ知る父親の最期を語るシーン、父親の墓を掘り起こした次の日の明け方に母親と話すシーンを読んだときは思わず涙が出てしまった。それまでオスカー目線から語られる情景描写がいまいち分かりにくかったということも作用してたからか、オスカー、母親、祖父母の真意が一気に分かったときのカタルシスは是非読んで感じて欲しい。あと視覚的な面白さも良かった。例えば心療内科の病室の外から中にいる母親の声を聴こうとする描写では、言葉がぶつ切りにしか聴こえないということを、ページ内に余白を作って文節をぶつ切りに書くことで表してたり、祖父の混沌とした内面を表すため、ページを追うごとに行間をどんどん詰めてって、しまいには幾重にも文字を重ねてページを真っ黒く塗りつぶしてたり、内容だけじゃなくヴィジュアルでの伝え方が斬新だった。映画は観てないけど、このあたりの世界観は映像化できないやろから本読んでホンマ良かった。
一番すきなのは本作の最後。9・11発生時ビルから飛び降りた1人の男性の姿、これは俺もニュースで観た記憶があって、今思い返しても現実のものとは思えないけど、作中でオスカーはこの男性の動きをパラパラ漫画のように逆から辿ることで、地面から空を飛んでビルに入っていくように見せている。死んだ父親も燃えたビルもテロを起こした飛行機もすべて時間をどんどん戻していって、9月10日の夜に父親と一緒に寝たところまで遡っていく。本作は9・11だけでなくドレスデンや広島の爆撃にも触れてて、テーマとしては勿論人の死と遺族の生なんやけど、最後のシーンはホンマ、作品を悲しみだけで終わらせずに締める役割を担った見事な書き方やと思った。
映画も観たい。。けど観たら観たで「やっぱ本やな」といういつも思う感想に帰着するような気もする。