東日本大震災から10年の月ということで、『二重のまち/交代地のうた』と本作を購入。のっけの『WITH COWS』からズッポリやられて一気読みした。
読む前までは、『想像ラジオ』の続編的に書かれたいとうせいこうさんの小説かと思ってたが、モノローグということで、福島に関わった一般人と著者の対談を集めたものだった。対談とはいえ語りは全て一般人のみでいとうせいこうのいの字も出てこない徹底っぷり。あとがき曰く、『想像ラジオ』で勝手に語らせてもらった分、今回は聞き手に徹したとのこと。
驚いたのは、各編に出てくる一般人の方々が、具体的に何をしている方なのか分からないままだったこと。こういった類の本は大抵、1ページ目や各編の冒頭にザッと紹介されていることがほとんどな気がするが、本作は話の中で断片的には情報が得られるものの、名前や出生など具体的な情報は出てこないまま終わりを迎える。それがなんか、狙った匿名性というか、「震災に関わった、何者でもない人は、こんなにも多種多様に存在する」と訴えるような気が個人的にはして、いや知らんけど、そこもいとうせいこうの演出なんかなと感じた。
『WITH COWS』は、被爆地で殺処分される牛をなんとか生かしたいと活動する女性の話。風評被害で東北産の食物を買うことを当時躊躇ってた身分としては、この女性のように文字通り命懸けて線量を測って情報を発信してた方がいるということを知り、キリキリと苦しくなって喉の奥の方が痛くならざるを得なかった。『THE MOTHERS』は、子どもを守りたい一心で、夫を被災地に残し遠くに引っ越した経験を持つ4人の母親の話。義理の母親に福島産の食べ物を食卓に出されて、子どもに食べさせることを躊躇い自分だけで食べきっていたり、福島に家を建てたはいいもののどうしても戻る気にならず7年放置していたりと、迷いながらもそれぞれに正義があって、その正義を都度貫きながら10年を過ごしてきたことが語られてる。
読みながら改めて、今もし大震災が起こった場合俺だったらどうしようとか、否が応でも考えさせられた。『a flower』の方は身内を亡くしたことを小説という文字で起こすことで昇華させたり、『RADIO ACTIVITY』の方は「ラジオは福祉だ」と言って町の住人に距離のないラジオを届けたり、さっきも言ったけどそれぞれの正義を形成して生きていってる。変な言い方やけどこういう時の人間の強さというか割り切り方に、悲しいながらもとても力強さをもらえた。フリースタイル**の総支配人というイメージがここ数年ですっかり俺の中についてしまったいとうせいこう氏やけど、久々に著書を読んでやっぱ文字の人だなぁと感銘を受けた。今年(と言うか今月)マスト読みの1冊。