読書の秋とはよく言ったもので、なんか読む本読む本皆面白いトランス状態。
『菜食主義者』のハン・ガンさん著。訳者である斉藤真理子さんが韓国の歴史から韓国文学についてとことん紐解きまくった名著『韓国文学の中心にあるもの』が面白すぎたんやけど、その中の1つのエピソードとして取り上げられていた光州事件を描いた作品として紹介されていたのが本書。光州事件は1980年、光州市で大規模な反政府蜂起が起こり、軍隊の武力鎮圧により多数の一般市民の死傷者を出した事件。学生の街頭デモに始まったのちに一般市民をも巻き込んだ騒乱に発展、死者191人、重軽傷者852人とされている。
・・・という、ネットで調べた字面を淡々と述べるのは簡単やけど、こうやって小説として昇華された作品から事件を知れるというのがやはり読書は素晴らしい。数編から成る短編集やけど、エピローグにもあるように著者は本作を書き上げる上で自身の体調を崩すほど思い入れが入ってる。
求め得る限りの資料を読むということが最初の原則だった。十二月の初めから他の何も読まず、文章を書かず、なるべく約束もせずに資料を読んだ。そのようにして2ヶ月が過ぎ、一月が終わる頃にはこれ以上続けることはできないと感じた。
正真正銘身を削って描かれたそれは、作品からもその切迫感が伝わってくる。2章『黒い吐息』は死者視点で描かれたフィクションやけど、自身の魂が消えてくという想像し難い様を緻密に描き切ってて、いとうせいこうの『想像ラジオ』を読んだ時のような味わったことのない感覚。また、4章『鉄と血』では、読み進めるのが困難なほど残酷な拷問の犠牲者が、その後の人生をまともに歩めない様がありありと描かれていて、これも精神に影響を来すほどの緻密な調査や取材による賜物だと説得力を持って感じた。
初の高島鈴さん。帯には語気強めの言葉が並ぶが、アナキズム・フェミニズム・ルッキズム・ナショナリズム等に対する持論を丁寧に積み重ねて説明されており、またタイトル通り「動かない人も立ち上がりましょう」と訴えかけたいモチベーションから作られた見事な作品。
「動ける人」だけが誉められる革命は「動けない人」をさっぱりと切り捨てる。それで社会が変わったとして、そこに現れるのは新しいマッチョイズムの「帝国」なのではないか?布団にうずくまる人をオルグできない革命は私の革命ではない。
割ととんがってる文章なので多分苦手な人は苦手やし、何度も繰り返し同じ主張が出てくるので若干読みにくさはあったけど、著者の「おかしいのは人でなくシステム」という一貫性はすごく良かった。
何度でも書くが、変わるべきは社会の方である。己を否定された怒り、苦痛、悔しさを、さらに己の労力を割いてわざわざ明るいものにすり替えたり、やわらかいもので覆い隠したりする必要はない。
こちらも初めての堀さん。これも良かった、、日記とエッセイが織り混ざった作品やけど、とかく文章が面白い。この方は普段教師だそうで、作品の後半にはお子さんも生まれ母になったという方だが、
「教師でお子が産まれて育休後職場復帰」した人の人生なんて、俺は本来知る由もない。というか各人の実情なんて、たとえ5年以上ずっと一緒に働いてきた職場の人ですらほとんど知らない。
なのにエッセイや日記を読むと、山口県に3人暮らししてる、文章センス抜群の堀さんという方の人生をめっちゃ知った気になるから不思議。こんな顔なのかしらとか、なんとなく声低そうで〇〇さんに似てそうやなとか、想像が張り巡らされるから不思議。読んでて、そんなことを終始思った。
自己評価は低めだけれど譲れないポリシーはしっかり持ってる点が素敵。かつて教え子が自死してしまった経験を持ってるが故に、
生徒が髪を切っていたら、それが何センチだろうと「髪切ったね」と声をかける。どんな返事だっていい。それは私にとって「生きているね」という確認のようなものだ。絶対に声をかける。髪切ったねと声をかける妖怪として、これからも生きていく。
といった実践をしている。こういった独自哲学は、意識的にでも無意識的にでも生きながら日々各人の中でアップデートされてってるんやろうけど、少なくとも俺はかなりの部分を定性的にしか捉えられてないから、堀さんのように文字で整形することで自分の中に落とし込んでくのはすごい、というか、真似せなあかんなぁ、、と感じた。
この今のことを忘れたくないなと思う。書いている今はあの光景を思い起こせるが、書いてもいつか忘れるだろうと思って、それはやっぱりとても不思議だと思う。でも忘れたわたしが、あらたに知るいつかを思うのはまた楽しみなことでもある。
久しぶり今村夏子さん最新作の短編集。相変わらず「今村さん」過ぎてニヤニヤした。どれもかなりエンタメしてて小説として成り立ってるんやけど、なんか最後いい意味でスカすというか、「あれっ、解決した風に終わったけど割とバッドエンドじゃね!?」てゆういやらしさが全部にあった笑
とある事件を同級生のせいにすることで苦しむ『嘘の道』、
近所の小学生がDVされているのではという心配心から食事を与えるようになるも、結局物事を悪い方に導いてしまう『良夫婦』などみんなそう。
昔吉田修一や新堂冬樹とか読んで「人間のエグい部分抉り取ってんな〜」みたいに思ってたけど、あれはやっぱりミステリーというエンタメ路線に振り切った故になせる技と思う。
一方で今村夏子さんが(いい意味で)タチ悪いのは、描かれるトピックはホント日常に溢れる些細なものばかりで、それなのに言われたら痛いとこ突きまくってくるとこ。こんなに芯食ってるのに読みやすい、という異常性、、相変わらず魅力満載でニヤけた。