『生物と無生物のあいだ』 / 福岡伸一
★ × 92
生きているとはどういうことか―謎を解くカギはジグソーパズルにある!?分子生物学がたどりついた地平を平易に明かし、目に映る景色をガラリと変える。
内容(「BOOK」データベースより)
一時期話題になっていた新書ですが、噂通り悶える程の作品でした。
著者の福岡伸一さんは分子生物学専攻の教授であり、本書の内容もDNAやES細胞といった分野を切り取り、章によっては正直内容が理解できない個所もあります。
ただし帯にある「読み始めたら止まらない」理由は取り上げる題材も然ることながら、およそ生物学研究者が書きあげたとは思えない、あまりに優れた文章ゆえでしょう。
こういった専門書にも近い新書は、
難しい学問を平易な文章で表わそうとはしているけれど、平易すぎて全く深く入り込めていないもの、
或いは
難しい学問を難しいまま伝える力しかない著者が書くので、全く分からないまま読了するもの
が多いですが、福岡さん程文章力の高い研究者がペンを持つと、これほどまで楽しく、且つ内容もかなり理解できるということが驚きです。
逆に言えば、プログラマや法律家など、一般層には受け入れにくい、けれど分かれば絶対に面白いであろう分野にも福岡さんレベルの文章家が居れば、より人気を得られるんだろうなぁと思います。
本書はタイトル通り、貝殻(生物)と小石(無生物)の何が決定的に違うのか、を論じています。
それは9章「動的平衡とはなにか」から15章「時間という名の解けない折り紙」までで特に紐解かれていきますが、ノックアウトマウスから動的平衡系を明らかにする15章はとても感動的です。
『何事も起こらなかったことに落胆するのではなく、何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。』
まさにその通り。
更にそののちエピローグとして福岡さんの幼少期、アオスジアゲハとトカゲのくだりから結論に至りますが、随筆家のようなその文章は、ちょっと笑ってしまう程すごい。
iPS細胞の功績でこの分野はグッと身近になったと勝手に感じていますが、まだまだ、というか全く以て知らないことばかり。
けれどその功績は文字通り命の綱となり人類を上へ上へと登らせるような魔法であって、ただただ「いつも助けてくれてありがとう!」と感謝せざるを得ない。
恩恵を受ける一人間として、少しでも知識を深めたいと思います。