『人生オークション』 / 原田ひ香
★ × 85
内容(「BOOK」データベースより)
不倫の果てに刃傷沙汰に及んでしまい、謹慎中のりり子叔母さん。就職が決まらずアルバイトをする私は、気分転換にと、一人暮らしを始めた叔母の様子を見に行くことに。そこで目にしたのは、トラック一台分はある、大量のダンボール。処分に困った二人はそんな「お荷物な過去」をせっせとオークションにかけてゆくが…。“欲しいもの”を手放していく叔母と、“欲しいものが欲しい”私。世代も生き方も異なる二人を鮮やかに描く、ちょっとしたご縁のハナシ。
友人に借りた初めての作家、原田ひ香さん。
あまり期待していなかったのですが、短編2作ともなかなか良かったです。
表題作『人生オークション』は、就職できない主人公と、その叔母さんの話。
叔母さんは傷害罪で逮捕歴があり、実の姉含め周囲の人間にとっては完全にお荷物。
ふとしたきっかけで、主人公は引っ越してきて間もない叔母さんの家を訪ねることになります。
叔母さんの家は、不倫相手から過去もらっていた服やバッグの詰まった段ボールで大量に占拠されている。
主人公はそれらを、ヤフーオークションで売りさばき生活費にすることを提案します。
つまり表題の意味は、叔母さんのそれまでの人生を、オークションで得る金と引き換えに1つ1つ取り払っていくということ。
叔母さんは、身内だと絶対に嫌だと断言できるような迷惑な存在ですが、一人の人間の価値観が金で換算されていく様は、想像すると結構切ない。
昔ダウンタウンの番組で、自分という存在が何円なのか換算するブラックな企画を観た記憶がありますがあんな感じ。
恋愛に溺れ、のちに何も残っていない叔母さんだからこそ、せめて得られる金は高額であってほしいと願っている自分がいました。
んで、何気にこの物語の中で、主人公の就職できない様子がぽつぽつ描かれている点も良かったです。
結末は多くを語られないままプツッと切れますが、身を切られながらも幸せに強く生きる叔母さんを真近で見てきた主人公が何を思うかってのがほとんど明示されないまま。
結局彼女がまっとうに生きていくのか非常に興味を湧かせる作りで、にくいなぁ。けど好きです。
2作目『あめよび』、これがなかなかに難しい小説でした。
メガネ屋に努める主人公には、ラジオのリスナーの集いで知り合った輝男という彼氏がいる。
輝男とはずっと仲良く付き合ってきて、お互い結婚の年頃になって主人公から結婚の話を持ち掛けるが、輝男は「結婚できない」と真っ直ぐ突き放す。
のちに分かることですが、輝男には「諱」があります。
諱とは親だけが知る本人の本当の名前であり、子が成人したり結婚したりするタイミングで聞かされることになる。
主人公は諱に興味を持つも、輝男は決して教えようとせず、結婚に踏み切る気配もなく、二人は別れてしまいます。
別れる前の経緯に反し、別れる瞬間の描写があまりにもあっさりしていることにも驚きでしたが、それ以上にそのあとの展開が難解。
時は急に2年飛び、主人公は結婚・妊娠している。
そこにバッタリ再開した輝男、彼が主人公に取った行動とは…。
と、思わせぶりなネタばれギリギリで紹介をストップしておきますが、彼の行動が非常にしこりが残るというか、「なんだよ、なんだよ!」と口をすぼめたくなる。
1作目も然りですが原田ひ香さん、終盤まで非常に繊細に読みやすい物語を紡ぎながら、最後にボンと崖へ背中を蹴り飛ばすような構成を得意とする作家なのでしょうか。
決して嫌いじゃないし寧ろ次も読みたいと思わせてくれましたが、ちょっと誰か、『あめよび』の難しさを紐解いてほしい笑
いずれにせよとても興味深い小説でした。ポップに、けれどしっかり小説に浸かりたい人にお勧めです。