『きみの友だち』 / 重松清
★ × 91
内容(「BOOK」データベースより)
わたしは「みんな」を信じない、だからあんたと一緒にいる―。足の不自由な恵美ちゃんと病気がちな由香ちゃんは、ある事件がきっかけでクラスのだれとも付き合わなくなった。学校の人気者、ブンちゃんは、デキる転校生、モトくんのことが何となく面白くない…。優等生にひねた奴。弱虫に八方美人。それぞれの物語がちりばめられた、「友だち」のほんとうの意味をさがす連作長編。
本を読み始めた中学時代から数えると20作以上読んでいる重松清さんの作品ですが、中でも最も好きな作品。
mixiでかつて本のレビューを書いていた8年前(19歳頃)は、瀬尾まいこさんの『卵の緒』、辻村深月さんの『スロウハイツの神様』、そして本作を「最も好きな小説の3つ」として挙げていました。
この数年でかなり趣味が変わったし、大切な人が亡くなったりいじめられたりする作品に対して単純に「感動して泣いちゃう」とは言えなくなりましたが、やはりかつて間違いなく涙させられた本作は今一度読んでも、やっぱ重松さんの文章いいなぁと改めて感じずにはいられませんでした。
本作は重松作品の王道、思春期のこどもの絶妙な感情を描いた小説。
主人公である恵美ちゃんは小学生の頃事故で片足不自由となり、以来松葉杖で生活を送ることとなる。
恵美ちゃんには一人、ゆかちゃんという大切な友人がいて、来る日も来る日もずっと二人でいるような仲。
ゆかちゃんは生まれたて腎臓に障害があり、成人になるまで生きていられないような病を抱え、頻繁に学校を休む生活を送っている。
この物語の面白い構成として、連作短編集の一つ一つの主人公は、どんな時も冷静に語る恵美ちゃんに助けられるクラスメイト達であるのに、最後の最後で恵美ちゃんが主人公となり、恵美ちゃん自身はどんな時もゆかちゃんに助けられていたという事実が浮かび上がる点。
だから読みながら、終盤までは皆を知らず知らずの内に支えている恵美ちゃんの強さ、優しさばかりに目が行くもんだから、
最後恵美ちゃん目線となり、彼女の悲しみやゆかちゃんに対する想いなんかにドバドバ気づかされ、そこで一気に小説全体に深みが増しているように思います。
だからストーリーをかなり覚えてしまった今でも、読み返してハッとさせられる描写が多い。
彩瀬まるさんの『骨を彩る』を読んだ時も思いましたが、ある主人公目線だけで語られながら、別の短編で全く異なる角度でその主人公を語るような小説の構成は面白いですね。
「こんなこと思っていたのか!」と驚かされるという点で、表現は適切でないかもしれませんが、一種のミステリーを読まされている感じ。
物語は終盤にかけて悲しみが急加速し、最後大団円で締めるようなロジックなので、最後上手い雑炊食えりゃ全部オールOKかよ、と苦手に思う人はいるかもしれません。
私も正直、この年になって読んでみると、少しきれいにまとめ過ぎている点がところどころあって、ちょっと肌がかゆくなるような印象があったのも確かです。
ただやっぱり感受性豊かな学生のうちに、(それこそ自分のこどもができたら彼らに)、読んでほしいなと思わせる作品だと感じたのも確か。
『その日の前に』や『カシオペアの丘で』のように、人を失う悲しみがどうしても先行しがちな小説より、ゆかちゃんと恵美ちゃんという絆深い友人を持つことの意義を伝えてくれる本作を、やっぱ今後も手元に置いておこうかなと思いました。
*ここからは駄文ですが、
前から「昔好きだった本や音楽は今味わっても好きだ」という持論を展開していたのですが、ここ最近、やっぱり趣味や嗜好が変わった今は、昔好きだったという理由だけで現在進行形で好きになれるかってのは、モノによるのかなという考えにシフトしています。
それは良いことなのかよくわかりませんが、かつて血湧き肉躍る感覚を味わったことを覚えている分、今楽しめない自分が「汚れたな俺の心は…」と感じずにはいられません。笑