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音楽家が線量計を持ちあるく世の中なんて間違っている。
でも、そこからはじめるしか道はない。
福島に住む選択をした人、新天地を求めた人、遠い場所で震災に思いを巡らせた人―「音楽」「祭り」「放射能」「シャッター商店街」…震災後をめぐる6つの対話と、大友の自伝的初小説を含む、切なくも希望とノイズに満ちた対論集。
内容(「BOOK」データベースより)
多くの方と同じく、私もこの半年間『あまちゃん』を録画し、帰宅後普段より近めにテレビの前に座り、毎日毎日物語の細部まで深くのめり込み、土曜は気になった回を観直したりしていた人間の一人です。
それは朝の連続テレビ小説でありながらアナーキズムを匂わす脚本家クドカンの見事な構成力だったり、能年玲奈、宮本信子、杉本哲太、薬師丸ひろ子、古田新太、松田龍平といったキャラ立った登場人物の魅力だったり、
特に9月に入り、震災以後の情景や心情の描き方が素晴らしく、観終えてしばらく引きずるほど心を持っていかれたりもしました。
そんなあまちゃんの中でもう一つ、「潮騒のメモリー」「暦の上ではディセンバー」などの劇中歌、そしてもう毎日のように頭を流れる主題歌…つまり音楽が極めて重要な要素になっているのは言うまでもありません。
ダラダラ書いていますが、本作はそのあまちゃんの全楽曲を担当した大友良英さんの対談を集めた対談集です。
もう数回であまちゃんが終わるというこの絶望的状況で、少しでも心を引きずられたくて手に取りました笑。
本作で登場するのは、私のような層にすらその名を知られているほど、震災以後精力的に活動された方々。
彼らの活動は様々あれど、福島に対しての関わり方は、大きく直接と間接の二値に分類されると思いました。
直接関わっているのは木村真三さんのような、福島に乗り込み、住み込み、己の知識を最大限に活用して現地の人々と共に生きていく決意をした人。
或は安齋一壽さんのような、除染活動や放射線量の調査を徹底し、果樹園継続の為成果を出し続ける人。
この方々の意識、決意や信念にはただただ圧倒させられました。
勿論私のような「遠巻き」の意識も、震災前後で確かに変わりました。
海の見える場所へ旅行へ行ったとき、周辺に高台があるのだろうかとか、
本棚を組み立てるとき、倒れないように、そして倒れても怪我しない位置に設置しようとか、自衛という意味での意識は変わりました。
けれどそれを内で終わらせ、外に向けて発信し巻き込んでいくことは実行していない。
心配したり、守ったりという気持ちは私の場合家族や恋人や友達、本当に手の届く人々に向けられた感情でしかない。
THE YELLOW MONKEYの「JAM」の詞が表わす
「外国で飛行機が落ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
『乗客に日本人はいませんでした いませんでした いませんでした』」
よりももっとミクロの世界で終息させてしまっています。
だから変にメディアの示す「数値のウソ」に勝手に踊らされ、けれど心を傷めたくないから深いところまで追究しようともしない、マキタスポーツさんの言葉を借りるなら「浮動層」の代名詞のように生きています。
そんな私に、震災に直接的に行動した方の対談は、はっきりいって息が詰まりました。もっというなれば無力感でショックでした。
一方、震災に間接的に関わったのは、朝ドラ『カーネーション』の脚本家、渡辺あやさん。
渡辺あやさんとの対談で大友さんが言っていた
「フクシマ、フクシマと主張せずとも結果的に心の支援となるような表現者がすごい。『カーネーション』はそれだった」
といった発言がとても響きました。
またまた楽曲からの引用で申し訳ないですが、KREVAの『C'mon,let's go』という曲のなかで
「一人一人てんでバラバラでいいんだ 同じとこ目指す仲間だから」
という詞がありますが、まさにこれ。
もしも被災地に家族が友人がいれば、と勝手に想像すると、もっともっとアタマで考え行動しているかもしれない。
そういった仮定を置くとそののちに「なんだよ、結局第三者かよ」と自己嫌悪になりますが、渡辺あやさんの対談は、そんな気持ちに心を疲弊させた人たちにとっての言葉が並んでいると思います。
少なくとも私は安らいだし、目の前のことを一生懸命やる!!という当たり前の単純な結論に落ち着きました。
だから、個人的には是非渡辺あやさんの対談だけでもすべての人たちに読んでほしいです。
タイトルの示す通り、もちろん震災を題材にした作品ではありますが、高橋源一郎さんとの「ノイズ論」もかなり面白かったです。
「なぜ「不必要」なものがあるのか?
それは、不必要じゃないからです。
たとえば、弱い人がいないと人間は傲慢になる。みんな健康だったら、不健康のことを考えないでしょ?
体の弱い人が横にいたら、自分が元気であることはなんて素敵なことなんだろうとわかるわけ。
だから、僕たちは基本的に無知なんです。」
頁の量に比例して密度も高い、かなり読み応えのある対談集でした。
買って読むことに意味がある作品ってこういうやつだなぁと実感。