『うたかた/サンクチュアリ』 吉本ばなな
★ × 83
複雑な家庭環境の中、これまで会わずに育った「兄妹 」が出会った瞬間から恋をはぐくむー。互いに愛する人を失った男女が出会い、やがて何かに導かれるようにして寄り添ってゆくー。
運命的な出会いと恋、そこから生まれる希望や光を、瑞々しく、静謐に描き、せつなさとかなしい甘さが心をうつ珠玉の中編二作品。明るさのさしこむ未来を祈る物語。定本決定版。
吉本ばななさんは『TSUGUMI』『なんくるない』『キッチン』『アルゼンチンババア』『デッドエンドの思い出』このブログでも紹介した『みずうみ』と何冊か読んでいますが、本作もそれらと同様、ストーリーを追うような読み方はしませんでした。
正直言って上記作品のストーリーは全く覚えていません…。印象として覚えているのは、あんまり感情移入できない設定だったなぁ、ということだけ。
ばなな作品に触れる時、物語を追う以上に意識するのは、自分にとって経験したことのない表現や言い回しを探すこと。
「それなら小説じゃなくていいじゃないか」と言われるとそれまでですが、それほどまでに毎回、なんて言葉のセンスだと唸るような文章が出てきます。
例えば『うたかた』の主人公の母親を表す数文。
「母はすぐ落ち込んだり、口ではいろいろ言うが、風にしなる柳の枝のように強かった。
泣きながらも眠る前にはパックをしたり、食欲が無いと言って夕食を抜いていても夜中ひとりでお茶漬けを食べているような、情けないくらい丈夫な心を持っていた。」
もうこれだけでズバッ!と母親を描写し切っている。
そのあと物語ではその母親が自らの命を絶とうとするまで追い込まれますが、もうその時点で前述の強い女性のイメージが彼女にガッチリハマっているから、余計その後のストーリーが悲しくなりました。
あと、同じく『うたかた』から、主人公の兄が離れていくときに放つ言葉。
「だめなもんはなにしてもだめになるし、うまくいくものはどうやっても、うまくいくよ。」
この平仮名だけの一文で凝り固まった色々が、瞬間的にだとしてもフーッと柔らかくなった感じ、これが読書の醍醐味!!
『うたかた』も『サンクチュアリ』も、読み終えた次の日にはストーリーは頭から抜けてしまっていました。
ばななファンの方には、登場人物に自己投影して一喜一憂する方もいるでしょう。そういった方々には申し訳ありません。
けれど私はばななさんの作品を、こうやってブツ切りにして味わう楽しみ方をしてしまいます。