『何もかも憂鬱な夜に』 / 中村文則
★ × 96
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。
(内容「BOOK」データベースより)
心から納得させられる小説というのはたまにありますが、本作のように陰鬱な空気が流れるような作品が該当したのは個人的に初めてでした。
しかもそれが大きな感動を伴って押し寄せるという。
ここ最近で最も印象深い小説の一つです。
主人公は死刑囚に相対する看守であり
、死を前にした人間を目の前にどう行動すれば良いか、全編に渡りその葛藤が有りありと描かれています。
彼は過去友人を自殺で亡くした経験があり、「人が生きる」とはどういうことかを考え抜いていく。
当然その過程が易しいはずも無く、物語の大部分は息が詰まる程苦しい。
特に中盤出てきた、命を絶った友人が主人公に当てた手紙はあまりに強力で、読んでいて吐き気を感じる程でした。
この時点で既に私は生への疑念や不条理を嫌が応にも感じていて、日常を揺るがすインパクトを読み手に与えているという意味では、この手紙の描写で物語を締めていたとしても名著として十分その名を轟かせていたでしょう。
けれど本著がそして中村文則さんが何よりも素晴らしいのは、それほどまで答えの見えない展開へ進みながらも、物語の最後ににきちんと全てを浄化する言葉を持たせているという点です。
無論死生観なんて十人十色であって、これが解であると断言することは愚かでしかありませんが、少なくとも現状の私にとっての、人が生きるとは何かという問いに対する答えとなりました。
特に心から感動した文章が2つあるのですが、解説で又吉さんがこれらに触れられていたこともまたひとつ喜び。
生きることに疑問を抱いたことのある人には是非読んでもらいたい小説です。