『天国旅行』 / 三浦しをん
★ × 81
内容紹介
現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意――。出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。すべての心に希望が灯る傑作短編集。
『木暮荘物語』以来半年ぶりのしをん作品です。
各物語にあまり統一感の無い短編集で、『むかしのはなし』のような浮遊感ある作品だなーと、読み始めに感じました。
始め3作品がなかなかツマラなかった…。
「老人語り」とでも呼ぶのでしょうか、たまにある、ナレーションベースで話しかけるように進む小説がまず苦手ってのがあるんですが、立て続けに2本読んだあと、読むの辞めようかと思いました笑。
ただ4話目『君は夜』がきた!
夢の中でもうひとつの人生を送ってきた主人公が、現実と夢を交錯させ恋をする物語。
夢のなかでは別の女性であり(おそらく前世)、現実の彼女は夢の彼女が恋をした男性像を求めるようになる、という、言葉で表すとなかなか陳腐な内容です。
ただ、物語では夢と現実の境を見失ってからの主人公の狂気っぷりがなかなか見応えあります。
私は三浦しをんさんのエッセイもかなり好きですが、『舟を編む』や
『風が強く吹いている』などの熱血小説だけを読んでいる人は、エッセイを読むといかに著者が下世話で、オタクで、ブラックな女性なのか分かって驚くと思います。笑
それを加味して『君は夜』なんかを読むと、勝手な想像ですが、しをんさんの本領が発揮されるのは、こういった人間のエグみを引き出したような小説なのかなぁとも感じます。
死の扱い方にも好感を持ちました。
死を取り上げることで生の素晴らしさを説く作品はいくらでもありますが、それらってどうしても死を美しく祭り上げてる感がありますよね。
それは当然、その方が人気出るから。「感動作!」と銘打ちやすいから。
けれどこちとらナニクソと身構えていても、役者の巧さや文章の巧さにやられて、やっぱり泣いてしまうんです。
時間が経つとその刹那的なカタルシスの印象しか残っていないから、「泣ける作品だよー」とつい言ってしまう。
…ダラダラ書いてしまいましたが、言いたいのは、本作はそういった作品とは少し違うよ、ということ。
死んだ彼女が霊となって現れる『星くずドライブ』、
一家心中で生き残った息子を描く『SINK』
どれも死を取り上げた作品にも関わらず、フォーカスされるのは死の無情さでも生の喜びでもなく、
生きることの辛さ、死に対する憧れや「最後の手段」感。
つまりよくある作品と真逆をいってる訳です。
パラドクスですが、こんな風に描かれると逆に生きる活力みたいなものが湧いてくるから不思議です笑。