『かわいそうだね?』 / 綿矢りさ
★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
同情は美しい、それとも卑しい?美人の親友のこと、本当に好き?誰もが心に押しこめている本音がこぼれる瞬間をとらえた二篇を収録。デビューから10年、綿矢りさが繰り広げる愛しくて滑稽でブラックな“女子”の世界。
『勝手にふるえてろ』『しょうがの味は熱い』以来3作目の綿矢りささん。
『勝手に〜』が相当面白かったので、読みたい女性作家が増えたーと喜んでいたのですが、、
…いやー今回もキョーレツに面白かった!
今まで読んでなくてごめんなさいという感じ。もうすっかりファンです!
『かわいそうだね?』『亜美ちゃんは美人』の2編。
いずれも登場人物の置かれた状況は軽くないですが、言うなれば前者が怒り、後者が悲しみがテーマでありながらも、読後に得もいえぬ達成感がある話で、一気読み間違い無いです。
表題作である前者は、彼氏が前の彼女と同棲している事実を知りつつ、それを否定することで別れ話を切り出されることに怯えている内、なあなあで現状を受け入れてしまっている女性が主人公。
彼女は決して己の弱みを見せず、恋人や友人に甘えず気丈な態度を取る性で、例えばどうしようもない不安や悲しみに襲われた時も、思考を別の角度に意識的に飛ばすことで、いつの間にか脅威は去っている、そんな癖を持っています(思考の飛ばし方が何度か出てきますが、相当オモロイです)。
だから「彼氏が前の彼女と住んでいる」という笑えない環境においても、自分を納得させるし、誰も不幸にしない。
読んでいるとすぐに彼女の味方になってしまうし、そんなに我慢すんなよ、キレろよおい!とヤキモキしてしまう。
んで、終盤にこのヤキモキを吹き飛ばす彼女のがバーンと現れるのですが、もうここがサイコーに面白い!
いや、決して面白くはない状況なのですが、コツコツ積み上げた我慢や体裁を脱いで、狂った思考が数頁に渡って垂れ流されるシーンは、かわいそうだね?という感情以上に、綿矢りさすげえという感嘆の気持ちを強く感じました。
是非ご堪能あれ!サイコーです。
後者は、学生時代からの友人「亜美ちゃん」を巡る物語。こちらも女性が主人公です。
亜美ちゃんはとにかく絶世の可愛さを持ち(勝手に佐々木希をイメージしながら読みました)、高校大学ともにどんな時も場所でもアイドルとして扱われる友人。
そんな友人の横で引き立て役にしかなれない主人公は、真から亜美ちゃんのことを好きになれないものの、常に主人公について回る亜美ちゃんを無下にもできず、社会人になっても付き合いは続いている。
そんな亜美ちゃんですが、社会人になってしばらくして、衝撃的に出来の悪い男と付き合い始め、婚約まで至ります。
亜美ちゃんの彼氏、コイツの存在がもうキョーレツに面白くて仕方ないのですが笑、主人公は友人として、どうしてもこんなクソ野郎と亜美ちゃんを結婚させるわけにはいけない、という気持ちが芽生え、阻止しようと決意します。
んで、自宅で男と対峙する機会があり、そこで別れてほしい旨を伝えようとしますが…。
ここから数頁で物語は終わるのですが、この少ない分量で
「なぜ亜美ちゃんはこんなクソ野郎と結婚するのか」
「なぜ亜美ちゃんは主人公に常に付き纏っていたよか」
といった理由が全て明らかになり、それを知った時の主人公のとった行動がなんとも悲しくて、最後の最後で泣いてしまいました。
あ、けど決してバッドエンドではありません、別に隠す必要はないのですが笑、文章に書いてしまうと途端にチープになる気がするので、書かないでおきます…。
どちらも本当に素晴らしいですが、後者が特に好きかもしれません。
いずれの短編もストーリーは決して目新しくはありませんが、強烈な個性と合間に挟まれる心理描写が本当に面白い。
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