『できそこないの男たち』 / 福岡伸一
★ × 84
内容(「BOOK」データベースより)
「生命の基本仕様」―それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす“使い走り”に過ぎない―。分子生物学が明らかにした、男を男たらしめる「秘密の鍵」。SRY遺伝子の発見をめぐる、研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら「女と男」の「本当の関係」に迫る、あざやかな考察。
『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で、分子生物学という馴染みない分野を世に広げ、私のようなエセ理系男子を完全に虜にさせてくださった福岡大先生。
本書も他に違わず生物学の壮大な物語であり、話の中心は「男と女」。
タイトルの意味、これは生物学界では当たり前の事実を述べてあるだけで、
オスとは、メスの出来損ないの産物であるらしいです。
メスというデフォルトがまず在って、進化の過程で誤ったカスタマイズによりオスという不出来な命が誕生した。
だから男は平均寿命が短く、罹患しやすい不釣り合いな存在である、という話。
本書は性差を示す遺伝子の発見から、男性の成り立ち、弱さ、そして最後は女が強いってこういうことなんですという事例も交える構成になっており、生物学の知識のない方でも一本のドキュメンタリーとしてサラサラ進められるようになっています。
その読みやすさを司る一番の理由はやはり、何でこんなに文章うめえんだっていうとはや疑問すら湧くほどの福岡節。
例えば
第3章「匂いのない匂い」は、冒頭書物の話から始まります。
ある膨大な書物があり、それはある時古びて半分に割かれてしまった。
その前半を受け取った者、後半を受け取った者は、己の身体に変化の兆しを感じるようになった。
どうやらそれは書物を読むことに起因しているようなのだが、では変化をもたらす原因となったページはどこにあるか分からない…。
これ、一体なんの話をしているのか全く分かりませんでしたが、途中で書物が「細胞」を表していることに気づきます。
つまり己の変化、例えば毛深くなって声が低くなった者は「男性」を示す細胞を受け取ったことになる。逆も然り。
そして変化をもたらすページとは、性差を表す細胞であり、研究者たちは膨大な細胞からソレを見つけるため苦心したと…いった歴史を比喩に次ぐ比喩で示しています。
学問だから、言っちゃえば教科書の如く「コレとソレがあああなったのでナニができました」と事実をコンコンと述べるだけで新書として成り立つのに、
そこにドラマチックなナレーションと、なにより福岡さんの「意見」を挟み込んでいることが、ただの新書として終わらせない理由なんだろうなと感じました。