『少女は卒業しない』 / 朝井リョウ
★ × 93
今日、わたしはさよならする。図書室の先生と。退学してしまった幼馴染と。生徒会の先輩と。部内公認で付き合ってるアイツと。放課後の音楽室と。ただひとり心許せる友達と。そして、ずっと抱えてきたこの想いと―。廃校が決まった地方の高校、最後の卒業式。少女たちが迎える、7つの別れと旅立ちの物語。恋愛、友情、将来の夢、後悔、成長、希望―。青春のすべてを詰め込んだ、珠玉の連作短編集。
内容(「BOOK」データベースより)
ものすごく良かったです。
いわゆる恋愛小説読んだのってかなり久しぶりだと思いますが、こんなにもグッとくるとは思いもよりませんでした。
連作短編集。
廃校となる高校で最後の卒業式を迎える女子学生たちがそれぞれ主人公で、もれなく恋をしている甘酸っぱい設定。
若い頃の、スモールワールドで生き抜くしか術のない不条理な気持ち、けれどそれ故に1つのことに貪欲に真っ直ぐで、小手先でなく全体でぶつかっていく気持ちが前面に出てて、(彼女らは苦しんでいるんだろうけど)それがとても羨ましいです。
・『在校生代表』
全編、ある在校生からの送辞で綴られる物語。
こんな送辞実際にあったら辟易するだろうけど、朝井さんが描くとすごく美しい。
かなわぬ恋をして、告白は文化祭の花火で…だとか説明だけで赤面しそう。
けれど中学高校の頃って、こういったベタに気持ちでは反骨心を持っていても、いざというときはそれが実行できちゃう最後の年代だったんだろうなぁ。
今はもうできない。舌噛み切って死ぬ。
あぁ、俺も年をとったなぁ。
・『寺田の足の甲はキャベツ』
一番好きな作品。
東京の大学に出ていく女、地元に残り浪人する男。
最後10頁で別れを告げるシーンが描かれていますが、ここはとにかく巧すぎてもだえた!
「寺田のキャベツみたいな足の甲と、あたしのレタスみたいな足の甲。
二つ並べるとあたしは自分を女の子だって思えた。
そういうとき、あたしの心は火で炙った砂糖みたいになる。
部活のとき、赤いバスパンに見え隠れしていた寺田のひざのうら。
へこんでいて影ができて洞窟みたいだった。
そういうことで、あたしはもういっぱいになる。」
といった文章を読んで、私ももういっぱいになりました笑。
物語の登場人物に感情移入するというより、過去の自分や周囲の人間、多少着色はあれど確かに生きていた当時の誰かと照らし合わせてドキドキするような感覚でした。
朝井さんが描く若者に妙な臭さがないのは、著者が決して背伸びせず、当時感じていた等身大の心情をそのまま文字に起こしているだけだからと思います。
だから本来であればイラッとくるはずの口語調も非常にしっくりくる。
著者はまだ24歳…
そういえば『世界はつながっているんだな』という歌を聴いた時すげえと思っていたら、歌い手の清竜人さんは大学の後輩の友達だったという衝撃がありましたが、
こうやって同世代(なんなら年下)の生み出す作品に感動させられるというのは嬉しいと同時に、実に勝手に少し嫉妬したりなんかしますね。
…とにかく、一級品、全世代共通で、本を読む人読まない人誰でもめちゃめちゃ甘酸っぱい気持ちになれる小説です。
今度誰かにお勧め本聞かれたら紹介しよう、そう思える本です。