『ジ・エクストリーム・スキヤキ』 / 前田司郎
★ × 85
10年以上聴き続けている音楽。もう会えないと思っていた人。奇跡なんて他人事だと思ってた私たちのあの日の特別なあれ。
内容(「BOOK」データベースより)
表裏にすき焼きを囲む男女の写真がグリッド状に詰められた装丁に魅了され、ロクに内容も確認せず買いました。
よく見ると映画化されるそうで、しかも著者自身がメガホンを取られるという珍しいパターン。
けれど読み終わった今は、この空気感を演出するには著者本人しか出来ないだろうという気がしてます。
この空気感を一言で言うのは難しいですが、似たものを挙げるとすれば、吉田修一さんの作品が近いかなぁという気がします。
ストーリーは淡々と進むその背後で並行して、哀しみが流れているといったような構成。
物語は社会に出てしばらく経つ男女が大学卒業以来数年ぶりに再会し、過去と現在の自分達を照らし合わせながら、ああ昔は良かったな、けれど前に進まなきゃなと懐古的になる、よくある展開で進みます。
んで、背後に流れる悲しみというのは、彼らの友人だった一人が亡くなったという事実。
これ自体詳細は描かれていませんが、少なからず彼らが友人の死に関わっているという推測ができます。
物語はさておき、彼の死がもたらしたこの燻った世界観、この表現が非常に素晴らしかった。
顕著に表れているのは彼らの会話。
「えっ、なに?」と本来書かれるハズの相槌を「えなに、」と書いてあったりして、細部に気だるさやリアリティーの演出が散りばめられています。
感情垂れ流しというか、ロジカルに作り込まれた文章でない分たまにイラッとしましたが、最後まで低温を維持するにはこれくらいが丁度良かったとも感じます。
一方で物語はというと、最後まで気持ちが上がりきらなかったにも関わらず、締めの言葉として「未来はさ、真っ暗ってことでしょ?それでもそっちを向いてないと駄目なんだ」という至極綺麗な台詞が出てきたことが、少し残念でした。
低温な彼らは、行き当たりばったりの旅行の果てに「コンビニで食材を買い、宿でスキヤキをする」というイベントに着手します。
その流れ自体は個人的にすごく好きだし、彼らがスキヤキをするその描写は生き生きとしていて、本文にも書いてあるように「楽しいで溺れそうである」ことが伝わってきました。
間違いなく本作のハイライトだし、ここでバッサリ終わっていればかえって、生き辛い世の中を表しているようでいいのになぁ、といっちょまえなことを少し思ってしまいました。
映像がどうなるのかが寧ろ楽しみです。
読後、役者を照らし合わせてみましたが、4人ともかなりマッチしているんじゃないかと感じます。
映画の予告はこちら
映画『ジ、エクストリーム、スキヤキ』予告編 - YouTube
特に市川実日子さんなんかサイコーなんじゃないだろうか