『これからお祈りにいきます』 / 津村記久子
★ × 91
神様に「これだけは取られたくない」ものを工作して申告し祈りを捧げるという、奇妙な祭りがある町に育った不器用な高校生シゲル。
父親は不倫中、弟は不登校、母親との関係もうまくいかない閉塞した日常のなか、町の一大イベントであるお祭りにも、どうにも乗り気になれないのだが―。
大切なだれかのために心を込めて祈るということは、こんなにも愛おしい。
地球の裏側に思いを馳せる「バイアブランカの地層と少女」を併録。
内容(「BOOK」データベースより)
サイン本です!
私の落書きではありません笑
タイトルから装丁から、物的満足度は相変わらずハイな津村作品。
1作目「サイガサマのウィッカーマン」は、心臓や目など体の一部の模型を作成し、神様に献上することで、その箇所には不幸が訪れないという言い伝えのある話。
物語では、その祭りが行われるまでの一部始終が描かれています。
主人公シゲルは高校生で、不登校の弟、不倫中の父親、家でダラダラ暮らす母親がいて、彼らは見事に、みんながみんな尊敬できないキャラです。
シゲル自身も斜に構えた嫌な感じの学生で、家族にも悪態つくし、アルバイトに精は出さず楽して金儲けしたい、いわゆる思春期の若者。
このあたりのマイナススタートは津村さんの作品によく見られますが、ここからジワジワ熱を帯びてアガッていく様はもう名人芸!
シゲルはひょんなことから、やりたくもない祭りの手伝いをさせられます。
神様になんぞ興味ない、安月給で重労働、上司は糞みたいな男…、とまあ悪態のオンパレードで呆れますが、徐々に気づきました、
いや、それでもお前ガッツリ働いてるやないか!と。
やっぱり登場人物は基本的には優しくて、しかもその優しさがあまりに自然なので、読んでいると現実に立ち返って、「俺も優しい男になろう…」なんて戒められたりもします。これが津村作品の醍醐味。
シゲルの優しさは家族にも向けられます。
決して直接的、情念的ではないけれど、当たり前のように長男としての責任感を持っている。
「家のことは自分がなんとかする、とシゲルは思う。
なんとかって、どうしたらいいのかはよくわからないのだけれど、目の前に横たわること、求められたことから逃げないようにする、と決める。」
こういうスローな意思決定が大事であること、それを感じさせてくれた有難い物語でした。
とまあ単調ながら趣深い短編でしたが、もう一つの短編「バイアブランカの地層と少女」はうって変わってバカ笑い小説!
主人公の繊細さ(電車に乗ってる最中に毒を撒かれたらどうしよう、といった不安等)、日常の些細な気づきや塞いだ心情にフォーカスし、どうでもいいことに悩んでいる彼らにまず笑い。
けれど「あぁ、こういうことってあるよなぁ」と得心が行って、その後に幸せな気持ちになる。
その繰り返し。津村さんはとにかく全作品その繰り返し。だけどそれが気持ちいい~んです!
あと2作品とも、東日本大震災について触れています。
触れた上で、この地震大国で生活することの是非について、べたつかない程度に論じています。
その辺りの主張も素晴らしく、普段一級のエンターテイメント小説などを読み、ストーリー性に心踊る読書生活を送っている方々に、是非このモノトナスな作品も手に取ってほしいと思います。
おススメ!!!!