『元職員』 / 吉田修一
★ × 84
内容(「BOOK」データベースより)
栃木県の公社職員・片桐は、タイのバンコクを訪れる。そこで武志という若い男に出会い、ミントと名乗る美しい娼婦を紹介される。ある秘密を抱えた男がバンコクの夜に見たものとは。
『怒り』を読みたいのですが、最近浪費気味なのでセーブしてます、今年中には読まねば。
本作は書き下ろしなので分量少なめです。
長期休暇を取り、タイに旅行中の一人の日本人男性が主人公。
彼の過去エピソードははじめのうち語られず、金でタイの女性を買って遊んでいる描写からスタートします。
そのうち、彼が金融関係の職に就いていること、日本に嫁がいること、嫁に贅沢な思いをさせていたこと、などの詳細がポツポツ出てきて、徐々に「ん?」という疑念が沸いてきます。「ん?なんか変だぞ?」
彼が買ったミントという名のタイ人の女性とは、言葉は通じずとも意志疎通し、数日間を共にします。
その行為自体は特筆すべきこともなく、愛くるしい彼女に堕ちていく典型的な浮気男性を描いているだけ。
彼女への想いの膨らみ方とシーソー的に浮かび上がる妻の存在が登場してくる様もありきたりです。
が、本書が吉田修一ここにありと言わせるネタが後半に溢れ出てきます。
とは言ってもひとつの説明が全てネタバレになるような設定なので詳しくは書きませんが、要は主人公は日本で罪を犯し、逃げるようにタイに来た次第。
ところどころで挟まれる過去エピソードは、彼が犯罪に手を染めていたことを描いていたものだった、ということが終盤にかけて露わになってきます。
出来心が膨らんで、大きな悪に手を染めだす様子などは『パレード』にあったような、人間の根幹を描くのが得意な著者ならではでした。
ただ、うーん、なにか足りない。。
例えばミント含め、タイで出会う人々がその罪に関わっていたというゴリゴリのミステリーにするのか、
はたまた突き詰めて人間の悪をえぐりだすのか、いずれかの振りきれ感があればもう少しのめり込めたかもしれませんが、どっちつかずなのが少し拍子抜けでした。
(「書き下ろし」って、つまりそういうことなのか…)
そこんとこ『怒り』ではびびってたじろく描き方してるのかなー、とちょっと期待持たせな感もありますが。
すらすら読める分、残りにくい作品でした。
「書き下ろし」ってことで、吉田ワークスにカウントしない方がよいかも…