『女たちは二度遊ぶ』 / 吉田修一
★ × 86
内容(「BOOK」データベースより)
電車で遭遇した目を見張るように美しい女。電話ボックスで見かけた甘い香りを残した女。職場で一緒に働く世間に馴染めない女。友人の紹介でなんとなく付き合った怠惰な女。嬉しくても悲しくてもよく泣く女。居酒屋から連れ帰った泥酔する女。バイト先で知り合った芸能界志望の女。そして、中学の時に初めて淡い恋心を抱いた女…。人生の中で繰り返す、出会いと別れ。ときに苦く、哀しい現代の男女をリアルに描く短編集。
プロットは良く分からなくとも、文章が上手いので「ただ文字の面白さを追いたい」って気持ちの時に読みたくなる吉田修一さん。
数年前にドラマ化もされている短編集です。
全11話、すべて男性目線から語られ、いずれの主人公も一人の女性が話の核を為しています。
風呂にも入らず部屋に転がり込む女、金遣いの荒い女、公衆電話越しで犯罪を犯す女など、特徴ある女性が多く出てきます。
そして彼らに恋したり付きまとったりする各編の主人公は、「おそらく男前なんだろうな」と予想されるような描写で、村上春樹作品の主人公ばりにプレイボーイであるものの、皆共通して貧乏。
解説にもありますが、若かりし吉田修一さん自身を、各主人公に少しずつ投影させたような物語になっています。
なので終わりかたはハッピーでも大不幸でもない、そこがすごくリアルな人間臭くて好きです。
面白かったのは『夢の女』と『十一人目の女』。
『夢の女』では、路上で見た美人の女性を家までストーキングする話。
主人公は後日、電車で再び見かけた女性に勇気を持って声をかけるも、当たり前ですが気持ち悪がられる。
何とかバイト先のバーの名刺を渡すことに成功するも、いつになっても彼女はバイト先に現れず、勝手にイライラを募らせた主人公は、再び彼女の家に向かいます。
そこで彼女の家から、男と戯れる声が聞こえてきて、自分の惨めさに感情が高ぶった主人公は、彼女の家に石鹸を投げつける、というストーリー。以上です笑
何の起伏もない物語ですが、登場人物を極めてアノニマスにして、鳥瞰的に淡々と描写される感じが、いい女に対するダメな男の残念加減を見事に表していてサイコーです。
ただこれ、どうやって映像化したんだろう…ドラマの方も気になる。
『十一人目の女』は、神様の視点から情景描写を時系列で語り、徐々に気味の悪いストーリーが露になるという、他とは一線を画す構成です。
これも淡々と、乾ききった語り口で結構残酷なこと書いていくので、黒い吉田修一さんの片鱗が見える短編。
何作か読んだだけでは吉田作品の良さがあまり分かりませんでしたが、噛めば噛むほど的にハマる感覚のある作家さんだなと感じました。