『伊藤くんA to E』 / 柚木麻子
★ × 85
内容(「BOOK」データベースより)
伊藤に長い間片思いするが、粗末に扱われ続けるデパート勤務の美人。伊藤からストーカーまがいの好意を持たれる、バイトに身の入らないフリーター。伊藤の童貞を奪う、男を切らしたことのないデパ地下ケーキ店の副店長。処女は重いと伊藤にふられ、自暴自棄になって初体験を済ませようとする大学職員。伊藤が熱心に通いつめる勉強会を開く、すでに売れなくなった33歳の脚本家。こんな男のどこがいいのか。5人の女性を振り回す、伊藤誠二郎。顔はいいが、自意識過剰、無神経すぎる男に彼女たちが抱いてしまう恋心、苛立ち、嫉妬、執着、優越感。ほろ苦く痛がゆい著者会心の成長小説。
『けむたい後輩』『ナイルパーチの女子会』 に続き柚木麻子さん3作目。
心の真ん中大ヒット!というワケではないんですが、何となく読みたくなるような、もう少しクリーンヒットすればホームランだ!みたいな感覚があるので、何故かしら読んでしまう作家。
本作もホームランとまでは行かなかったのですが…もう少しで真ん中に当たりそうな、そんな読後感でした。
伊藤くんという、どうしようもないダメ男に関わる5人の女性のお話。つまり常に女性視点の短編集です。
伊藤くんのことが好きな女性、伊藤くんに好かれる女性、伊藤くんに敬われる女性などが主人公ですが、いずれもあまり惹かれないというか、なんか苦手だわ~と思わされる女性ばかり笑。
『ナイルパーチ~』もそうでしたが、人間どこかしら欠落しているということを小説として描いているような節が、著者の面白さだなと感じました。
まあ本作で最も欠落しているのが伊藤くんなんですが笑
彼はとにかくナルシストで自信家で夢見心地で、「バカのまま死ぬのが最も幸せ」という悲しい真理を体現している愚の骨頂のような雄の生物で、
4話目まで、ゴキブリを見ているかのように眉を顰めてしまう伊藤くんの描写が続きます。
ただ5話目で、それまで描かれなかった伊藤くんなりの信念がドワーッと出てきて、実は単細胞ではなかったということが明らかになります。
規模は違えど朝井リョウさんの『何者』に似たどんでん返し感もあり、エンタテイメントとしても楽しめました。
あと構成として面白いのが、5話あるうち前半4話が、いずれも
1&3話目:伊藤くん、女性A、女性Bに纏わる「女性A」視点の物語
2&4話目:伊藤くん、女性A、女性Bに纏わる「女性B」視点の物語
という構成になっていて、1つの展開を表裏それぞれから味わうことができます。
もう少しでクリーンヒットしそうな作家…
めげずに読み続けよう。