『善き書店員』 / 木村俊介
★ × 92
(内容紹介)
この時代において「善く」働くとはなにか? 500人超のインタビューをしてきた著者が、現役書店員6名へのロングインタビューを敢行。 その肉声の中から探し、見つけ、考えた、体を動かし普通に働く人たちが大事にするようになる「善さ」とは――。 「肉声が聞こえてくる」、新たなノンフィクションの誕生。 話をうかがいはじめたら……すぐに、ああ、こういうゴツゴツとした手ざわりのある体験そのものを聞きたかったんだよなという手応えがあった。この分野ならずとも多かれ少なかれ抱えているものに、「書店員」という職業を通してさわっている気がした。いまの働く日本人にとって「これはあなたの悩みや思いでもあるかもしれないですよ」といいたくなるような声がたくさん聞こえてきて取材に夢中になったのである。――最終章「普通の人に、『長く』話を聞いて記録するということ」(書き下ろし)より。
全国津々浦々、シティのど真ん中から島の端まで大小さまざまな規模の書店で働く書店員の方6人のインタビュー集。
別にマスメディアに染まった業界人じゃなく、もうホントに、普通の書店員さんたちばかり。だから当然、淡々とドラマチックもドラスティックもない、淡々とした言葉が並んでいます。
これは多分あとがきにもあるように、著者でありインタビュアーである木村さんが確信的に「肉声感」を描き出す為に敢えて一切の細工をしない、ボイスレコーダの音そのものを文字に起こしただけな風に投げかけたのでしょう。
だからこれが『善きパン屋さん』や『善き住職』であっても、書かれる業務内容が違うだけで、染み出る空気感は一緒じゃないかなと思います。
ただ一応、私個人は普通よりもちょっと読書が好きだという自負があるので、やはり本に携わる書店員さんの生の声を聴くと萌えに萌えました。
全体として面白いのが、前述のとおり本当に各人の思いをつづってあるだけなので、当然それらに差異が生まれている点。
例えばポップ(店によくある、書店員の言葉で書かれた本の紹介文)の書き方ひとつ拘っている方がいると思えば、一方でポップなんか要らないとバッサリ語る方もいる。
各々が活躍するフィールドの規模は様々なので、見方感じ方いろんなベクトルに飛び交っているのですが、読み終わってみると、それらが1本の筋としてキッチリ繋がっているんです。
それはおそらく、それぞれの熱意があくまでも本、そして本屋という形態に向かっていることだけは共通しているからかなと感じました。
1本1本のインタビューだと正直旨みがないので、あぁ買って一気に読んで正解だなと思わせてくれました。
私が最も感銘を受けたのは、広島の廣文館金座街本店に努める藤森真琴さんのインタビュー。
藤森さんは若い頃、梶井基次郎の『檸檬』や川端康成の『掌の小説』を読んで、学校に通えなくなる程精神的にやられた経験のある、根っからの本の虫です。
そんな方だからこそ簡単には本を扱いたくない、また、簡単に本を扱ってほしくないと他人に願う気持ちを持って書店員を務められている。
この方の章を読んでいると、今まで漠然と持っていた「本屋で買う本ってなんかいいなぁ」と思う気持ちが明確化されたような印象を受けました。
人と人とが接する。私は、今後も本屋として店を構えて商売する以上は、どういう品ぞろえをするという以前の、ちゃんと人と接することができるというところがポイントになっていくと考えています。品ぞろえもまあもちろん大事ですけど、いろいろとお客さまから教えていただくこともあるし、出版社のかたも協力してくださるし、それで揃えていけばいい。
ただ、いろいろなお気持ちでこられるお客さまに対して、本という森羅万象を扱っているものを渡すのにふさわしくあることに関しては、誰かが手伝ってくれるわけではないですからね。
アマゾンではもはや立ち読みさえできて、他の方のレビューも見れて、定価より安く買えちゃったりする。
本屋では他の方がどう思っているか見えてこない、定価でしか買えない。
多少の情けを以てしても、本屋の価値は下がっていると思わざるを得ない時代ですし、以降もこの形態が縮小し変容していくことは避けられないでしょうが、それでも藤森さんのような方が、町の本屋として何らかの形を残していくんだろうなーと思います。
だって実際問題本屋さんの言葉を集めただけのこの本が支持されるほどには、書店で本を購入することに興味を持っている人はいるということですから。
この本を読んで「本屋にはまだ輝かしい未来が!」と光射す気持ちにはなりません、寧ろ結構切なくなります。
けど間違いなく、本屋に行きたくなります。笑 激おススメ!!!!