- 作者: 重松清
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2014/11/22
- メディア: 単行本
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『この人たちについての14万字ちょっと』 / 重松清
★ × 90
池澤夏樹、浦沢直樹、是枝裕和、いとうせいこう、鈴木成一といった表現者の方々に、同じく表現者である重松清さんがインタビュアーとなった対談集。
初め伊集院静さんの内容が震災に関するものでしたので、『シャッター商店街と線量計』のような、震災以前・以後の表現者の方々の言葉を綴ったものかと思いましたが、どうやらたまたまだったらしく、これといったテーマはありません。
だから、物凄く疲れた。笑
うん、疲れた、けれど内容のある、本として、活字として読む意味のある作品でした。
全員語るにはあまりに多いので、特によかったものを抜粋してレビューします。
まず、いとうせいこうさん。
本インタビューは『想像ラジオ』という著書が出た頃に為されたものであり、話の中心はその作品、及びそこに至るまでのいとうせいこうさんの作家人生を重松さんなりに紐解いています。
『想像ラジオ』を去年読んだ私は、フィクションともノンフィクションとも言えない新たな小説として痛烈な痛みを味わい、これまで読んだどの物語よりも鮮明に情景を思い描けた(故に非常に苦しかったんですが)という稀有な体験をしました。
『想像ラジオ』の第2章では、作家Sとちう人物の物語となります。
詳しくは書きませんが、作家Sにはある秘密がある。
それが明らかになったとき、えもいわれぬか悲しみがジワッと襲ってきたことを覚えていますが、もうひとつ印象的だったのが「死者」についての議論。
ここについて、本書でいとうさんはこう述べています。
「自分とは関係のない死者のことを想像してはいけないのか」の議論は、読者のためにある。被災地から遠く離れたところに住んでいる読者や、震災を直接には知らない未来の読者を楽にしてあげて、ここを越えるとみんな読み進めていけるよ、いうための章なんです。
ここを読んで私、作家とはなんたる職業かと心震えました。
それまでの対談でいとうさんが執筆活動をアクティブにされていた過去、描く架空であるはずの内容が次々現実のものとなり、予言者としての己に恐怖し筆を取れなくなった、というエピソードが語られていますが、『想像ラジオ』で復帰を遂げたのは、時代に対して速すぎたスピードの自分のギアを落とし、今度は未来に向かって発信するよう描いている。
それは現代では、私のような個人にさえも少し劇薬となりましたが、実は未来人が手に取り、保管し、読み継がれていくという意味合いが強かった。
これに気づいたとき、今まで抱いていたいとうせいこう像、それに『想像ラジオ』自体への称賛の気持ちがより一層増し、もっと読まなきゃなぁと痛感しました。
装丁生活1万日で1万冊、つまり、一日平均1冊の本の装丁を作り上げ、世に送り出したという偉業。
名前は何度も何度も本の中でお見かけしたことがありましたが、対談を読んだのは初めてで面白かったです。
そもそも私勘違いしていたのですが、装丁家って作家や出版社の意図を聞いてイメージに起こす職と思っていましたが、ちゃんとゲラから読んで自分の評を落とし込むんですね。
だから重松さんの著書で言えば『疾走』のような、内容を具現化し更にきちんと売れるものを作ることができる。
しかもそれ、一日一冊…言葉もありません。
他にも池澤夏樹さん、是枝監督の対談も非常によかったです。
欲を言えばもう少し、対談自体のボリュームも増やしてほしかった…てのはあります。
というのも、本書はあくまで重松清さんの作品であるため、要所要所に重松さんの経験談や思想や解釈が込められています。
と、いうことで例えば浦沢直樹の言葉に漬かりたい!という意識で読むとずっこけます、あくまで「重松瞰」からの浦沢さんでしかないので悪しからず。
とはいえ文章上手すぎるので、重松さん知らない人も好きになるんじゃないでしょうか。是非!