『春、戻る』 / 瀬尾まいこ
★ × 80
内容(「BOOK」データベースより)
正体不明、明らかに年下。なのに「お兄ちゃん」!?結婚を控えた私の前に現れた謎の青年。その正体と目的は?人生で一番大切なことを教えてくれる、ウェディング・ストーリー。
装丁がとても瀬尾まいこさんの作品。
36歳のさくらは、和菓子屋の息子である山田さんとお見合いの形で結婚することが決まった。
そんな折、さくらの兄を名乗る24歳の若い男がさくらの前に現れ、料理を作ったり遊園地に連れて行かれたりと、さくらの世話を焼き始める。
さくらは兄なんておらず、そもそも名前すら知らされないその男に付き纏われるも、徐々に男のペースに飲まれていき、一緒に行動するようになる…。
という不思議な話。
この24歳の兄の存在が物語のキーであり、早く正体を知りたいという気持ちに駆られるので、ページを捲る手は止まりませんでした。
ただ、ちょっと今回どうしても気になってしまったのが、実の兄を名乗る兄に対する周囲の態度が、あまりにも自然すぎること…。
ふつう、あんな不躾な若僧が現れたらもっと訝しがるし、それこそ警察に連絡したり、自分の過去を何とか調べて、兄の存在有無を掘り起こそうとするもんでしょう。
こういったツマラない邪念がどうしても邪魔をして、うーん…と思いながら読み進めてしまいました。
基本的に瀬尾さんの作品は赦し赦される人間関係で成り立っていて、そこがすごく好きなんですが、今回はちょっと許容できませんでした。
最後にはさくらとおにいさんの関係性が明らかになります。
それまで実はさくらの過去があまり語られないことに気づきませんでしたが、おにいさんの存在は彼女の過去に密接に関わっていて、少し悲しい理由でおにいさんは現れていました。
この辺りの繋ぎ方はすごく上手くて、少しダレ気味だった中盤までとは違い、いい意味でページを捲る速度は落ちました。
最後はほっこり。
いろいろ突っ込みどころはあれど、決して不快な気持ちにはさせない瀬尾さんならではの小説です。