『骨を彩る』 / 彩瀬まる
★ × 93
どうしようもない、わからない、取り戻せない、もういない―。なかったことにできない、色とりどりの記憶が降り注ぐ。最大注目新鋭作家、書き下ろし。
内容(「BOOK」データベースより)
『あの人は蜘蛛を潰せない』『暗い夜、星を数えて』に続き、今年3作目の彩瀬まるさん。
『蜘蛛~』が本当に本当に良かったので、書き下ろしとなった本作に過度の期待を抱いては幻想は崩れてしまう…と不安いっぱいでしたが、
杞憂でした。彩瀬まるさん、やっぱりめちゃめちゃ良い!
出たらとりあえず買う、著者は今まで津村記久子さんと横山秀夫さんだけでしたが、この年の瀬に3人目追加です。
本作は連作短編集。
Aという物語では、主人公とは別の登場人物であるB子さんは皆から羨まれる人間として描写されているのに、続くCという物語では先程のB子さん人称で展開され、彼女も決して完璧な人間などではないことが分かる、といった作りになっています。
各編がそれぞれを補う、というより、それぞれがちょっとずつ削り合っているので、読み終えても完成せず、欠落したままの印象が残ります。
帯には「心に「ない」を抱えるすべての人へ」とあり、一見この小説を読むことで「ない」が補われるように思われますが、決してそんな夢物語ではない。
けれどその喪失感がなんとも心地よくたまりません。
その一番の理由は、何と言っても文章の上手さだと思います。
例えば『古生代のバームロール』では、主人公光恵は、離婚し喪失した心を必死で埋め合わせるように、千代紙を折り続けるようになってしまいます。
母親からは気持ち悪がられ、本人にも自覚はあるものの辞められない。
第三者から見ればなんだよ千代紙って、と揶揄されるのがオチだけれど、彼女にとって救い(というか逃げ)なのはその時、確かに千代紙だった。
こんな少しイレギュラーな設定ですが、数十頁の短いストーリーの中に、彼女が千代紙に出会い、救われ、悲しみを浄化させ、千代紙から離れていく過程が見事に表現されています。
キリキリと締め付けるような感情描写によって、私も光恵になったような気分になり、私にとっての千代紙は何だろうかと考えてしまいました。
ここまで読者に強いる強烈な文章力、もう圧巻としか言いようがない。
そして私が最も「うぉぉ…」と悶えたのは、第一編『指のたより』と最終編『やわらかい骨』の繋がり方。
『指のたより』では妻を失った男性が主人公であり、『やわらかい骨』ではその娘が主人公で、テーマはこれまた喪失。
後者で娘の小春は、家庭の事情により食事前に祈らなければならない転校生葵と出会い、母親がいないという己の境遇と重ね合わせます。
自分では意識せずとも母親がいないことを周囲は気遣い、否が応にも理不尽さをまとってしまう、そんな状況に常に憤ってきた小春が、同じように理不尽さをまとった葵との距離を徐々に詰めていく。
終盤、互いの欠落を埋め合うように涙する場面があり、ここがとにかく心震えました。
誰しもが完璧じゃなく、その欠けた部分を埋めることもできないという悲しい真実だけれど、小春と葵の会話だけで全てが赦されてしまうようなパワーがありました。
そして物語はこれだけで終わらず、短編集とは言っても全て繋がっていて、最後の最後で『指のたより』にループバックしていく。
この持っていき方が最高に上手い!!!泣いてしまったじゃないか!!!
個人的な2013年新人賞は文句無しで彩瀬さんです…あぁあー読書っていいなぁいいなぁ!!