『何者』 / 朝井リョウ
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内容紹介 「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。
『桐島、部活やめるってよ』『少女は卒業しない』以来、三作目の朝井さん作品。
湊かなえさんの『告白』が鬼のように売れたときも思いましたが、こういった作品が賞を得る辺り、文学賞も色んな角度で読者を惹き付けようという努力が見れますね。
それくらい毒のある、言っちゃえば現代日本にはタブーな作品だと思います。
あらすじは、就職活動に励む男女の話。
ソーシャルネットワークの存在が巨大化し、自分一人の考えとペースで物事を進めることはもはや困難となった世の中で、
じゃあそれは果たして就職活動にどう影響を与えるか、それがもう負の意味で根こそぎ炙り出されています。
登場人物はみな、リアルで生きる裏で並行してネット内でもう一人の何者かに成りきっており、二重人格者として就職活動に励んでいる。
登場人物の会話、ツイート、もうそれらはあまりにもリアリティーがあって、実際拓人のような人も光太郎も理香も瑞月も隆良のような人も、私の周りには彼らに重ね合わせてしまう人が沢山います。
そして逆にこの作品を読んだ他の誰かに、私は「誰々みたいだなぁアイツは」と分析されているのでしょう。
(私は誰に当たるのでしょう…隆良だとしたらツラいな笑)
で、彼らは主人公の拓人目線で描写されていくのですが、
序盤からずっと、拓人の(というか朝井さんの)、アナリストかと疑うほどの分析能力が凄すぎて
「分かる!分かるぞ拓人!俺もそう思う!」
と納得しまくり、ドッグイヤーの連続でした。
私は朝井さんのような文才がありませんが、実際、理香や隆良のような友達を見て、ああ俺はこういうことを感じていたんだ、ってことを見事に表現してくれています。
ただ、そんな拓人の分析脳が終盤のある場面で、十数頁という結構な分量をかけて全否定されてしまいます。
(ここかなり圧巻なので詳しくは書きませんが)
そこまで読んでる最中、拓人自身の就活について何故かあまり語られないことに違和感を感じていましたが、このハイライトへの布石だったんですね。
それまで、私のように拓人の考えにウンウンと頷きながら読み進めていた人って少なくないと思いますが、そんな方々をバッサリ否定しています。
ここが、私が本書をタブーと感じる理由であり、また、「やってくれたね朝井さん」とニヤニヤしてしまう場面でもあります。
唯一心残りなのが、隆良について。
拓人、瑞月、光太郎、理香、4人とも真の人間味を表出する場面がありましたが、隆良の心情――焦りや緊張?――といった部分だけが描写されず、ただ「だいぶイタい奴」として終わってしまいました。
なので始め大嫌いだったのに、終わってみれば一番可愛げのあるキャラっていう笑。
どうせ映像化の話も進んでいると思われるので、その場合は隆良の人間味ある部分も是非盛り込んでほしいなあと思います。
心から良いと言える作品ではありませんが、心から「すごい!」と言える作品でした。
こんな小説を描く作家が年下だなんて、アイムジェラス!