『脳には妙なクセがある』 / 池谷裕二
★ × 86
内容(「BOOK」データベースより)
あまりにも人間的な脳の本性。最新の知見をたっぷり解説。
『海馬/脳は疲れない』『単純な脳、複雑な「私」』 以来3作目の池谷さん。
前読んだ2作に違わず、本書も知的好奇心を刺激し尽くす内容のオンパレードでした。
そもそも普段私たちが感じる痛み、不安、直観、愛情、妬み、疑心といった感情は全て脳の世界で解明できてしまい、意識あるまま頭蓋骨に穴を開け脳にダイレクトに電極を挿せば、その人が何を感じているか手に取るように分かってしまうというロマンある世界。
こんな分野を池谷さんという文章力のある研究者が分かりやすく説明してくれているので、ロマンと現実を行き来できる内容です。
例えば「やる気は、やり始めると自然に出るものです」なんて精神論を語る自己啓発はたくさんありますが、池谷さんの場合脳科学に基づいているので、説得力が数段違うんですよね。
本書はまえがきで書かれているように、いろんな話がいったり来たりするのでちょっと疲れますが、今の自分に必要な知識を脳科学からの裏付けを持って読者が抽出する、という方法で楽しめばいいと思いました。
私個人として面白かったのは2章、。
「自分から見て羨ましい人間が、不慮の事故や相方の浮気などで不幸に陥った」状況になったとき、不安情動や苦痛に関する部位よりも、側坐核という、報酬の感情、つまり「快感」を沸き立つ部位が活発になるという事実(笑)。
これは何とも言えない気持ちになりますが、人の不幸を知って己の幸を知るってのは社会的には悪しとされても、肉体がそういう仕組みになっているというのは実に面白いです。
あと
「楽しいから笑顔になる」ではなく「笑顔だから楽しい」
「眠たいから横になる」ではなく「横になるから眠くなる」
といった、
己の脳、或は精神から発信された感情が肉体に移っていくというプロセスを経て行動していくものだと思っていたものが、
実は「肉体から発信され、感情に移る」という逆のプロセスを踏んでいるという事実が数多く出てきており、本書の核であろう22章で、その事実を知った池谷さんなりの、読者へのメッセージが強く打ち出されています。
自分の人生は脳発信でなく、精神論など唱える暇があるなら、とりあえず体を使って良い経験を積んでゆけば、自ずと健全な精神が後からついてくる、という意見。
これがアスリートから出た言葉でなく、第一線で活躍する脳科学者の口から放たれているというのが何よりも痛快。
池谷さんの良さをまた知った1冊となりました。