『工場』 / 小山田浩子
★ × 84
不可思議な工場での日々を三人の従業員がそれぞれに語る表題作(新潮新人賞受賞)のほか、熱帯魚飼育に没頭する大金持ちの息子とその若い妻を描く「ディスカス忌」、心身の失調の末に様々な虫を幻視する女性会社員の物語「いこぼれのむし」を収録。働くこと、生きることの不安と不条理を、とてつもなく奇妙な想像力で乗り越える全三篇。
内容(「BOOK」データベースより)
初めての作家、小山田浩子さんです。
それも然り、本作がデビュー作でした。表題作は新潮新人賞受賞作。
円城塔さんの『これはペンです』を読んだ時の体験と似ていて、読み始めてしばらくは「読み方が分からない」という状態でした。
海外のカードゲームを買って、英語の取説を読みながら初めのうちは楽しみ方が分からない…けれど徐々に順応して、「あぁ、こういう風に楽しめば良いのか」と分かった風になる、てな感じ。
目の前の作業、風景、感情、「今」を余すところなく描写し尽くすあたり、津村記久子さんに似た表現だなぁとも思いましたが、徐々にその当てはめ方もしっくり来ませんでした。
表題作は工場の従業員を複数人称で描いた小説で、ストーリー性は皆無と言って良いでしょう。
段落が変わっただけで過去や今に時間軸が飛んだり、途端に句読点が激減したり、とにかく読んでいて疲れました笑。
ただ何だろう、テンポの読めなさが妙に面白くなってきて、最終話「いこぼれのむし」はかなりのめり込んで読みました。
作中には職場の人間関係の特殊性だったり、日常の不条理なんかがダラダラと描かれていますが、その、いい意味ですごく雑な感じの文章が、じわじわ熱を与えてくれるような感覚でした。
(うーんうまく言えない…)
あとどの物語も締め方が非常にロック。
声に表すと「うおいっ!」という感じ笑。
鳥、魚、虫と、度々生き物を(恐らく)比喩に用いていますが、その真意までは汲み取れず。
まあとどんな人でも、間違いなく今までにない読書体験が出来ると思います。
個人的にはかなり好きな方向にベクトルが向いた作家だと感じました。
(とりあえず表題作はもっかい読まないとわからない…)