『ぼくは勉強ができない』 / 山田詠美
★ × 95
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。
17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ。凛々しい秀美が活躍する元気溌刺な高校生小説。
内容(「BOOK」データベースより)
おそらく3回目。
以前mixiでレビューをつけていたなぁと思い、数年ぶりに掘り起こしてみました。
6年前(!)の2007年に★3つ(5つで満点)の評価と以下のレビューと共に記録していました。
『皮肉たっぷりの子供が主人公、
こんな奴おったら絶対友達になりたくないですが、リズミカルな文体がツボです』
…それだけ!?6年前の俺、それだけ!?
過去の自分にげんなりです。
6年ぶりに読み返した今、あまりに良書だったことを再認識しました。
よく言われることですが、自分が現在進行形、体全体で感じている悩みなんざ、数年前、数十年前、数百前の偉大な人たちがとうの昔に同じように悩み、そして解決策を打ち出していると。
そしてそれらは往々にして文字に起こされ、100円の古本なんかで世界に溢れている、だから悩んでいる暇があれば本を読めと。
本書はまさしく、「今お前の考えていることなんて、私が20年以上前(初版が平成5年だから)に考え、表現しきっちゃってるよ」と著者山田詠美さんに突き付けられているように感じるほど、刺さる名言のオンパレードです。
BOOKデータベースの内容には高校生小説とあり、まあ私も高校生と大学生の頃読んで、バカなりに学生特有の息苦しさを感じていた時期でもあったので、ああ共感したなぁという大まかな印象は持っていました。
なので確かに青春小説、今の学生が読んでも楽しめるとは思います。
けれど少し年を経た今思うのは、本書はあくまで山田詠美さんが主人公に化けて出てきただけであり、メッセージは大人になった人にこそ響くということ。
現に私は全編刺さりまくり、ドッグイヤーしまくりで文庫はボロボロになりました。
名言集をとくとご堪能あれ。
「幸福に育ってきた者は、何故、不幸を気取りたがるのだろうか。不幸と比較しなくては、自分の幸福が確認できないなんて、本当は、見る目がないんじゃないのか。」
「なぜ、人間は、悩むのだろう。いつか役立つからだろうか。だとしたら、役立てるということを学んでいかなくてはならない。しかし、後に役立つほどの悩みなんて、あるのだろうか。」
「微笑みを口許に刻める瞬間てのは、やはり、必要なんじゃないのか?たわいのない喜び、それが日々のひずみを埋めていく場合もあると、僕は思うのだ。」
「ぼくは、媚や作為が嫌いだ。そのことは事実だ。しかし、それを遠ざけようとするあまりに、それをおびき寄せていたのではないだろうか。人に対する媚ではなく、自分自身に対する媚を。」
「くだんないことで悩んでるのは確かだけど、あなたの悩みの実体は、手を替え品を替え、沢山の小説に書かれているのよ。もちろん、どんな文豪も、射精の瞬間には、そんなこと忘れているでしょうけどね。」
瀬尾まいこさんの『卵の緒』でも描かれていることですが、本書の主人公秀美もまた、父親がいないというレッテルを貼られた子どもです。
彼に向けられる周囲の好気的な目に対して、秀美がどういう態度を取るか。それが書かれている100頁
物事に対して、「~だからマル」「・・・だからバツ」という相対評価に何の意味も無く、それはあくまで絶対でしかないという貫き方。
カッコよすぎる!!そんな秀美の態度は憧れる!!だけでなく、無理にでも意識してこう考えられるようになりたい。
あーー面白かった、面白かった!