『せいめいのはなし』 / 福岡伸一
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(内容紹介)内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司との「はなし」で輝く、動的世界!「動的平衡」は生物の世界から、経済、文学、時間、意識、分類へと縦横無尽に広がっていく。いつも好奇心に目を輝かせている自由闊達な四人が「福岡伸一」の生命観に化学反応を起こしていく。相互につながる四つの「はなし」と、躍動する動的思考で語る著者の「はなし」――立ち上がってくる新たな福岡伸一ワールドとは?
偉大なる生物学者、福岡伸一大先生。
これまで何冊か読みましたが、個人的に対談ははじめて読みました。
これまで読んだものはいずれも、生命という捉えがたいテーマを驚く程平易な文章で、まるで映画のようなドラマチックさを含ませて提示してくれるようなものばかりでした。
そもそも私自身が生命そのものなのに、生きる上でなぜ今呼吸ができて、物を食べて、擦り傷が自然に治るのかなど意識したこともない、そんな腑抜けにささやかに一喝してくれるのが福岡さん。
そんな風に私の中で勝手に位置付けてますが、本作は対談ゆえ更に平易で、しかもお相手が内田樹さん、川上弘美さん、朝吹真理子さん、そして養老孟司さんといういずれも知識人ばかりなので、知的好奇心を刺激してくれる素晴らしい内容でした。
福岡さんが度々口にし、他の著書でもよく出てくる「動的平衡」という概念、これはシェーンハイマーという学者が提唱した「破壊し、また創造するという動的な流れの中で平衡を保つ」という概念で、生命の在り方を一言で表してくれる表現です。
本書ではその動的平衡を、作家や脳科学者という世界に置き換えたときの見え方に言及しています。
資本主義において、商品や貨幣はそれ自体の価値によってぐるぐる回っているように見える。
けれど実はここに落とし穴があって、動的平衡とも呼ぶべき現象が見てとれる、という話。
商品はあたかも価値があるかのように仮象しているだけなんです。どうして価値があるもののように見えるかというと、そうしないとグルグル回らないから。商品が物神化するのは、そうしないとグルグル回るシステムの整備が捗らないから。
まさに動的平衡、モノをグルグル回すことで初めてかろうじて均衡を保つ、という状態が我々の身体でも日常生活でも起こっているんだなぁと。
んでこれを読んで過ったのが、更に拡張して組織にも言えることなんじゃないかと思いました。
終身雇用がモットーですと暗に言ってきた日本で、人も変えず停滞した空気の中でイノベーションが生まれるかと言ったらそうではないんではないかと、
グルグル回り、破壊と創造を繰り返すことで命を持って育っていくんじゃないかと、なんかそんな壮大なモヤモヤを思いました。
(そういう意味ではトップ(首相)がコロコロ変わることは良いことなんだろうか…内田さんは別の本で「辞任が早すぎる」と言ってた記憶があるけど)
あと、養老孟司さんの昆虫論も相変わらず熱を帯びてて面白かったです。
この二人が生物に関して語り出せば誰にも止められない、といった脱線具合がにじみ出てて、内容云々より二人の楽しそうな姿が目に浮かんでニヤニヤしてしまいました。
「動的平衡」、この魔法の言葉を皆様にもぜひ味わっていただきたい、オススメです!