『楽園のカンヴァス』 / 原田マハ
★ × 82
内容(「BOOK」データベースより)
ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間―。ピカソとルソー。二人の天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。
2012年本屋さん大賞第3位の作品です。
100年ほど前の画家、アンリ・ルソーのある作品にまつわる物語。
ルソーの代表作である『夢』、これに酷似したもうひとつの作品『夢をみた』の真贋を見極めてほしいと依頼された二人。
カギとなるのは、『夢をみた』を描くまでの経緯が記されたノンフィクションの物語であり、本小説にはその物語の内容も度々出てきます。
設定からすればこの小説は謎解きであり、このノンフィクションに伏線が張られていると身構えていましたが、結果的にあまり深い意味はないように感じました。
(あ、ひとつだけ驚かされた事実が秘められていましたが。)
本編で特筆すべきはそこでなく、要所要所で出てくる、登場人物の(というか著者の)絵画に対する情熱でしょう。
例えば、ほとんど本編と関係ないですが、序盤に美術館で主人公が監視員としてパブロ・ピカソ作『鳥籠』に向き合う描写があります。
この作品に込められた別の意味を見出だしたときの、主人公の感動っぷりが面白い。
「絵が、好きなんだなぁ。」とニマニマしました。(なんじゃそら)
他にも、主人公二人が『夢をみた』に対峙したときの震え具合、決着がついたときの反応などから、絵画に対するリスペクトが登場人物を飛び越えて著書自身から溢れ漏れちゃってます。
そういうエゴを露にしながらも、エンタテイメントとして収束させているのもすごい。
ちなみにこれが、本作の要となるアンリ・ルソー作『夢』
作中の表現にもあるように、確かに奥行きも色みもよくある絵と異なっているのに、何故か惹き付けられる魅力があります。
もうひとつ作中に出てきた気になる作品、パブロ・ピカソ作『アヴィニョンの娘たち』
この破壊性!
わたしは絵画に詳しくありませんが、そんな私でも観たあと残像が残るほどのインパクト。
普段あまり知ることのない名画に触れることができる、知的好奇心としての読み物として一級品です。
一方、肝心の内容が一体なぜこれほどまでに「響かなかった」のか笑。
謎が明かされる過程は物語に緊張が走りますが、私自身には全く走らず。
最後は感動が物語を包み込みますが、私自身は全く包み込まれず。
なんというか、文章があまりにキレイに立っているというか、その逆効果であらすじや登場人物に深み・渋みが感じられなかったです。
平淡な訳書を読んでいる感じ。
過去読んだ本屋さん大賞ランクイン作品の中では、少し「?」となるものでした。
とまあ、ちょっと不満点はありますが、それでも「美術館行きたい…」と思わせる程の面白さはありました。