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内容(「BOOK」データベースより)
あのとき、ふたりが世界のすべてになった。なにげない日常がゆらいで光を放つ瞬間をとらえた、心ゆさぶる7ストーリーズ。
もっとも有名な本作で初体験でした。
あらすじとしては特に何もなく、大学生の男女が飲んだり恋に落ちたり恋人とうまくいかなかったり、、
『ジ・エクストリーム・スキヤキ』のような空気感で、淡々と進んでいきます。
ただそれらある種の冗長性を含む下手うまな描写に、ただ飽きもせず何かしらの憂いや欠落を感じるのがとても不思議です。
うまく説明できないのですが、それを感じる部分、例えば午前三時、酔っぱらった彼らはノリで城崎温泉に行くことを提案します。
この無尽蔵に時間だけを喰ってる、生産性のない大学生の感じ、思い出せばあぁ~懐かしいなと青春小説にもなりかねないのですが、なぜか無気力感が先行して、寧ろ悲しみすら過るのです。
なんやろこの感じ?
解説でやたら理詰めで本作の技巧について語られていて、私にはそんなこと読みながら全く汲み取れませんでしたが、感覚の奥底でそれとなく感じ取っていたのでしょうか。
あと登場人物それぞれに関し、例えば癖や外見や趣味やアルバイトや家族構成など、人物を語る上で必要な基本情報がほとんど出てこないから、良い意味ですごく淡白というか感情移入できないから、言っちゃえばファンタジー小説みたいにも捉えることができます。
後追いで本作が行定勲さんにより映画化されていることを知りましたが、知った今「まさに行定ワークスそのものを体現したような小説だなぁ」と感じました。
(あ、そういえばまだ『円卓』観れてない…)
個人的に好きだったのは、かわちくんというかわいらしい男の子とその彼女が動物園でデートする話。
かわちくんはとても優しい、ジ・エクストリーム・草食男子、他人や動物にさえ自然なやさしさを示してしまう性ですが、そんな彼に放つ彼女の本質を突いた言葉が結構好きでした。
人のことを気にしている人は、要は自分のことを気にしているからだという禅問答のような言葉。
学生という、何も考えていないようで実は結構考えていたんだなってことを思い出すようなみずみずしさをここで感じました。
芥川作家とは言えかなりライトな、けれどただ展開だけの面白さを強調するような文学とは一線を画す作品でした。