『東京百景』 / 又吉直樹
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内容(「BOOK」データベースより)
ピース・又吉直樹、すべての東京の屍に捧ぐ。「東京は果てしなく残酷で時折楽しく稀に優しい」いま最も期待される書き手による比類なき文章100編。自伝的エッセイ。
読みたい本がないとき、「又吉のお勧めしてる本買おう」、そうやっていつもお世話になっているお笑い芸人コンビ・ピース又吉さんのエッセイです。
又吉さんのプッシュする本にはほとんどハズレがなく、中村文則さんや西加奈子さんにハマったのも又吉さんのお陰。
雑誌やテレビで、読書に対する尋常じゃないリスペクトや依存度をしきりに公開していて、本を人生の大部分として生きている男性がいるんだ!と興奮させてくれたのも又吉さん。
芸人としても勿論ですが、一人の興味深い男性として笑、すっかりファンになって数年。
考えてみればコラムや書評を除いて、又吉さん名義で世に出ている本を読んだことがありませんでした。
めっちゃめちゃ面白かった!!
この面白さは「笑う」意味での面白さです、電車で何度も吹きそうになりました。
文章が巧くて笑いに長けてるってこうゆうことですよ、ってサンプルを提示されているようでした。
全百編、又吉さんが東京のそれぞれの場所での思い出が綴られています。
上京したもののなかなか芽の出ない下積み時代、金もなくて寺を散歩したり本を読んだりする中で又吉さんが感じたこと、妄想の世界、哲学、鬱々とした感情、良きも悪きもひっくるめて吐露されていますが、
それを決して重たく、自己顕示欲剥き出しで表現せず、面白おかしく書いているのがホント気持ちいいです。
内容は書きませんが単純に笑ってしまった好きな回は
『199年、立川駅北口の風景』『三宿の住宅街』『豊島園』『羽田空港の風景』…いや、めちゃめちゃあるな、書き切れん。
勿論本人の(いい意味での)気持ち悪さを知った上で読んでいるのでそこでの加点はあるでしょうが、そこを差し引いても文章面白すぎる。
そしてそんな中で、ずっしりと心底に響く物語もありました。
これまた詳しくは書きませんが、
『下北沢club queの爆音と静寂』に出てくる一節が好きです。
「何かの正義を強く主張して、ちょうど良い案配の潰せるくらいの小さな悪に対して厳しく向かっていく団体の臆病な英雄に気持ち悪さを感じて仕方がない。
都合の良い正義だなと思う。
絶対に勝てない悪に真っ向から立ち向かって殺された人の話って聞いたこと無い。」
恐ろしく繊細でこだわりの強い、親戚にいたならばかなりの確率でのけ者扱いにされてしまうんじゃないか、そんな危うい又吉さんですが、この本は最高でした。